ヨーハン・ヴァイヤー

ヨーハン・ヴァイヤー：魔女裁判に異を唱えた医師

ヨーハン・ヴァイヤー（1515年 - 1588年）は、ネーデルラント出身のドイツ人医師であり、魔女裁判に反対した初期の人物として知られています。彼は、当時の社会における悪魔や魔女に対する考え方に疑問を呈し、合理的な視点から問題解決を試みました。

生涯

ヴァイヤーは、ハプスブルク領ネーデルラントのブラバント公国で生まれ、幼少期からラテン語学校で学びました。14歳の時、彼は著名な人文主義者であり神秘主義者でもあったハインリヒ・コルネリウス・アグリッパの弟子となりました。アグリッパから隠秘学などの知識を学んだことが、後のヴァイヤーの思想形成に大きな影響を与えたと考えられています。

アグリッパがアントワープを去った後、ヴァイヤーはパリやオルレアンで医学を学び、医師としての知識を深めました。その後、故郷で内科医として開業し、1545年にはアーネムの町の医師に任ぜられました。アーネム時代には、魔女術に関する裁判で意見を求められたことが、彼の魔女裁判への関心を深めるきっかけとなりました。

1550年、ヴァイヤーはクレーヴェに移住し、ヴィルヘルム公の侍医となりました。クレーヴェでは、悪霊に関する重要な著作を数多く出版し、魔女裁判に対する批判的な立場を明確にしました。1578年に退職し、1588年にテックレンブルクで亡くなりました。

著作と批評

ヴァイヤーの代表的な著作には、『悪霊の幻惑、および呪法と蠱毒について』（1563年）や『悪魔の偽王国』（1577年）などがあります。これらの著作を通して、ヴァイヤーは当時の魔女裁判における告発や処刑の不当性を訴え、告発された女性たちを「精神的に病んでいる」と表現することで、彼女たちへの同情を示しました。

彼は、魔女狩りを正当化する『魔女に与える鉄槌』を批判し、妖術の告発に関わる法規制を制限することを求めました。また、『悪霊の偽王国』では、地獄の位階秩序という考え方を嘲弄し、悪魔の力を誇張するキリスト教会の主張に異議を唱えました。

しかし、ヴァイヤーは悪魔の存在そのものを否定していたわけではありません。『悪霊の幻惑について』では、悪霊が幻影を作り出す力を持つことを認め、幻影を作り出す人々を魔女ではなく魔術師と呼び、彼らが悪魔の力を使って幻影を作り出す異端者であるとしました。

『悪霊の偽王国』は、悪霊の解説や、悪霊を呼び出すための呪文などを収録した書物であり、後のグリモワール（魔術書）に影響を与えました。ただし、ヴァイヤー自身は降霊術を行う自称魔術師を批判しており、儀式魔術には懐疑的な立場をとっていました。

影響

ヴァイヤーの著作は、当時の知識人やオカルティストに大きな影響を与え、魔女裁判に対する批判的な視点を広める上で重要な役割を果たしました。彼の著作はラテン語で書かれ、多くの版が出版されました。また、レジナルド・スコットによって英訳され、広く読まれることとなりました。

ヨーハン・ヴァイヤーは、魔女裁判が横行した時代に、勇気をもって異議を唱えた人物として、歴史に名を残しています。彼の思想は、後の時代における人権思想や科学的思考の発展に貢献したと言えるでしょう。

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