ハインリヒ・コルネリウス・アグリッパ

ハインリヒ・コルネリウス・アグリッパ（1486年 - 1535年）は、ルネサンス期のドイツを代表する人物の一人です。魔術師として広く知られていますが、人文主義者、神学者、法律家、軍人、医師としても活躍しました。その生涯は、学問と政治、そして神秘主義が交錯する激動の時代を反映しています。

生涯

アグリッパは、1486年に神聖ローマ帝国のケルン、またはその近郊のネテスハイム村で生まれたとされています。裕福な家柄で、騎士の称号を持つ家系であったとも伝えられています。ケルン大学で法律、医学、哲学、外国語など、多岐にわたる分野を学び、その才能を早くから開花させました。特に、イタリアの哲学者ジョヴァンニ・ピーコ・デッラ・ミランドラの影響を受け、カバラの研究に没頭しました。

卒業後は、神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世に軍人として仕え、その後、フランスのドール大学で聖書学を講義しました。しかし、宗教改革者のヨーハン・ロイヒリンの説を支持したことが原因で追放され、ロンドンへ逃れることになります。その後、イタリアのパヴィアで神学を講じた後、フランスのメスで市庁の法律顧問の職を得ました。

メスでは、魔女として告発された農家の主婦を弁護し、無罪を勝ち取りましたが、これがきっかけでドミニコ会からの攻撃を受け、1520年にケルンへ戻ります。その後は各地を放浪し、1535年にグルノーブルで亡くなりました。

思想と影響

アグリッパの思想は、ルネサンス・ネオプラトニズムの影響を強く受けています。また、一時期ヨハンネス・トリテミウスに師事し、その教唆を受けました。さらに、デジデリウス・エラスムスやフィリップ・メランヒトンといった、当時の知識人たちとも親交がありました。

主な著作

『隠秘哲学について』三部作 (De occulta philosophia libri tres)：アグリッパの代表作であり、魔術、占星術、錬金術など、隠秘学に関する知識を体系的にまとめた書物です。自然界の神秘的な力や、人間と宇宙のつながりについて論じています。
『女性の高貴さと卓越性について』 (Declamatio de nobilitate et praecellentia foeminei sexus)：女性の知性と道徳的な優位性を主張した書物であり、当時の社会における女性の地位向上を訴えるものでした。
『学問の不確実さと空しさについて』 (De incertitudine et vanitate scientiarum et artium)：当時の学問や知識に対する批判的な視点を提示した書物です。人間の知識の限界や、学問の虚飾性を指摘しています。

アグリッパの著作は、後世の魔術やオカルト研究に大きな影響を与えました。また、彼の思想は、ルネサンス期の知識人たちに刺激を与え、学問や宗教に対する新たな視点をもたらしました。

参考文献

酒井明夫 『魔術と狂気』 勉誠出版 ISBN 4585052712

外部リンク

* Writings of Heinrich Cornelius Agrippa (1486-1535)

アグリッパは、その多才さと革新的な思想によって、ルネサンス期における異彩を放つ人物でした。彼の生涯と著作は、当時の社会や文化、そして人間の知的好奇心を深く理解するための貴重な手がかりとなります。

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