ヨーロッパイチイ

ヨーロッパイチイ (Taxus baccata)

ヨーロッパイチイは、イチイ科イチイ属に分類される常緑針葉樹です。別名セイヨウイチイとも呼ばれ、ヨーロッパに自生する唯一のイチイ属の樹木として知られています。英語では一般的に「Yew」と呼ばれ、西洋文学に登場するイチイは、原則としてこのヨーロッパイチイを指します。他のイチイ属の植物と区別するために、「European Yew」や「Common Yew」とも呼ばれます。

※ 北米原産のタイヘイヨウイチイ（Taxus brevifolia）も「セイヨウイチイ」と呼ばれることがありますが、これは誤用です。タイヘイヨウイチイの英名「Western Yew」の「Western」は、アメリカ西部を意味します。

分布

ヨーロッパイチイは、西ヨーロッパから中央ヨーロッパ、南ヨーロッパ、北東アフリカ、そして南西アジアにかけて広く分布しています。

利用

ヨーロッパイチイは、古くから様々な用途で利用されてきました。

ロングボウの材料: 中世のイギリスでは、ヨーロッパイチイの木材が弓（ロングボウ）の材料として重用されました。
家具材: ヨーロッパイチイの木材は硬く、水を通しにくい性質を持つため、高級家具の材料としても利用されます。
薬用: 果実は食用になりますが、種子には毒性があります。ただし、少量であれば瀉下薬や鎮咳薬として利用されてきました。
庭園樹: 「Irish Yew Taxus baccata 'Fastigiata'」をはじめとする多くの栽培品種が存在し、欧米では庭園樹や街路樹として広く植えられています。特に、イギリスやアイルランドの教会にはよく植えられており、樹齢千年を超える古木も存在します。

タキソールの原料

ヨーロッパイチイは、抗がん剤の原料としても重要な役割を果たしています。

葉や樹皮に含まれる10-デアセチルバッカチンIIIという物質は、抗がん剤パクリタキセル（商品名：タキソール）の半合成原料となります。パクリタキセルは、当初タイヘイヨウイチイから発見されましたが、含有量がごく微量であったため、利用は困難でした。その後、研究が進められ、ヨーロッパイチイから10-デアセチルバッカチンIIIが発見され、パクリタキセルの効率的な生産が可能となりました。現在では、葉などからの抽出だけでなく、樹木を利用せずに培養細胞から抽出する方法も確立されています。

関連項目

イチイ
フォーティンゴールのイチイ - スコットランドにある、イギリスで最も長寿の木と言われるヨーロッパイチイ。
* イチイの舞踏会 - 1745年にフランス国王ルイ15世が、イチイの木に扮した仮面舞踏会を開催した。

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