イチイ

イチイ（一位） - 神聖な木から有用な資源まで

イチイ（一位、学名：Taxus cuspidata）は、イチイ科イチイ属に属する常緑針葉樹です。日本、朝鮮半島、中国東北部、千島列島などに分布し、国内では北海道から九州、沖縄まで広く見られます。生育地は寒冷地の山地や深山が多いですが、平地でも植栽されています。

名前と伝承

学名Taxusは、ヨーロッパイチイのギリシャ語名で弓を意味する言葉に由来し、種小名cuspidataは「急に尖った」を意味します。和名「イチイ」は、神官が使う笏（しゃく）の材料として用いられたことにちなみ、仁徳天皇がイチイに正一位を授けたという伝承に由来すると言われています。そのため、シャクノキという別名もあります。他にも、アララギ、キャラボク、オンコなど、地域によって様々な呼び名があります。アイヌ語では「ラㇽマニ」と呼ばれ、「弓になる木」という意味の呼び名も存在します。

形態と特徴

高さ15メートルほどになる高木で、樹形は円錐形です。成長は遅く、寿命は長いです。樹皮は赤褐色で縦に裂け、老木になると深い縦の溝ができます。葉は濃緑色の線形で、先端は尖っていますが、柔らかく触っても痛くありません。枝に2列に並んだり、螺旋状についたりします。花期は3～4月で、雌雄異株です。果期は9～10月で、赤い仮種皮に包まれた種子をつけます。この赤い部分は甘く食用になりますが、種子や葉、樹皮には有毒成分タキシンが含まれ、誤って摂取すると中毒症状を引き起こす可能性があるため注意が必要です。

変種と品種

イチイにはいくつかの変種や品種があり、特にキャラボク（Taxus cuspidata var. nana）は、高さ0.5～2メートルの常緑低木で、多くの枝を横に広げるのが特徴です。多雪地帯に自生し、鳥取県伯耆大山のものは特別天然記念物に指定されています。キャラボクとイチイは葉の付き方や大きさなどが異なりますが、いずれも有毒成分を含んでいます。

用途

イチイは古くから様々な用途に利用されてきました。

木材: 年輪が緻密で加工しやすく、光沢があり美しい木材は、弓、工芸品、家具、建築材、鉛筆などに利用されます。特に、岐阜県飛騨地方の一位一刀彫は有名です。
庭木: 耐陰性、耐寒性があり、刈り込みにも強いことから、庭木や生垣によく用いられ、トピアリーの素材としても使われます。北海道などでは、神事に使われるサカキやヒサカキの代用としても用いられてきました。
* 果実: 果肉は甘く食用となり、果実酒にも加工されます。アイヌの人々も古くから食用にしていました。

ただし、木材や葉、種子には有毒成分が含まれるため、取り扱いには十分な注意が必要です。

文化と伝承

イチイは、ヨーロッパの文学や神話にも登場し、ロビン・フッドの伝説にも関わっていると言われています。また、日本の各地で、その木材や果実が、生活や文化に深く関わってきました。

保全状況

IUCNレッドリストでは、軽度懸念（Least Concern）に分類されていますが、ワシントン条約の附属書IIにも掲載されており、適切な保全管理が求められています。

イチイは、その美しい姿、有用な木材、そして豊かな伝承を持つ、魅力的な植物です。しかし、有毒成分の存在を常に意識し、安全な扱い方を理解した上で、その恩恵を享受することが重要です。

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