ヨーロッパウナギ

ヨーロッパウナギ：謎に満ちた一生と絶滅の危機

ヨーロッパウナギ（学名：Anguilla anguilla）は、ヨーロッパで唯一生息するウナギ科の魚類です。古くから食用として親しまれ、ヨーロッパの食文化に深く根付いてきました。しかし近年、その個体数は劇的に減少しており、絶滅の危機に瀕しています。2007年にはワシントン条約の付属書に記載され、国際的な取引は厳しく制限されています。

広範囲な分布と独特の生態

ヨーロッパウナギは、スカンジナビア半島から地中海、黒海沿岸、そして北アフリカの一部にまで広く分布しています。夜行性で、川底の泥や岩陰に潜んで生活する底生魚です。マイン川やクズルウルマク川など、様々な河川に生息し、日本にも一部移入分布しています。戦後、日本へ養殖用種苗として大量に輸入された歴史があり、現在でも日本各地の水系でヨーロッパウナギが確認されています。

謎に包まれた生活史：サルガッソ海の産卵

ヨーロッパウナギの生活史は、長らく謎に包まれていました。産卵場所が分からなかったのです。1920年代、デンマークの海洋生物学者ヨハネス・シュミットが、バミューダ諸島周辺で生まれたばかりの仔魚を発見。その結果、サルガッソ海で産卵が行われていることが判明しました。

サルガッソ海で冬から春にかけて孵化した仔魚は、「レプトケファルス」と呼ばれる、葉のような独特の形態をしています。この仔魚は、約3年間かけて成長しながらメキシコ湾流に乗ってヨーロッパ沿岸へと運ばれます。河口域で変態し、透明な「ガラスウナギ」を経て、稚魚である「エルバー」となり、河川を遡上。淡水域で雄は6～12年、雌は9～20年かけて成長します。成熟した個体は眼が大きく、頭部がとがり、体色は暗い銀色に変化します（Silver eel）。

性成熟に達したヨーロッパウナギは、再び海へと下り、サルガッソ海を目指して産卵を行います。この一生に一度の旅は、4～7ヶ月もかかり、餌を摂らずにほぼ一直線に産卵場へ向かうことが、標識個体の追跡調査から明らかになっています。降海直前の個体からは成熟卵が見つからないことから、卵形成はサルガッソ海への移動中に行われると考えられています。最近の遺伝子解析では、繁殖は同じ河川や地域の個体同士で行われ、産卵場で出会った他地域の個体とのランダムなペアリングは少ないことが示唆されています。さらに、耳石の解析から、河川に遡上せず生涯を海で過ごす個体（海ウナギ）や、河川と海を複数回行き来する個体（河口ウナギ）も存在することが判明しています。

[アメリカ大陸]]東岸に生息するアメリカウナギ]も、[[サルガッソ海で産卵します。ヨーロッパウナギとの関係は不明な点が多く、両者を同種と考える研究者もいます。

ニホンウナギとよく似た形態

[ヨーロッパ]]ウナギは、ニホンウナギ]と外見が非常によく似ています。細長い円筒形の体で、雌の方が雄よりも大きくなり、最大で約130cmに達します。下顎は上顎よりもわずかに長く、腹[[鰭はありません。背鰭と臀鰭は長く尾鰭とつながり、総鰭条数は500本以上にもなります。椎骨は110～120個です。

古代からの歴史と食用としての利用

ヨーロッパウナギは、非常に古くから知られている魚類です。古代ギリシアのアリストテレスは、ヨーロッパウナギの降河回遊性を記述しており、成熟した卵を持たない沿岸や河川の個体から、その起源について様々な憶測が生まれました。アリストテレスは地中から生まれると信じていた一方、古代ローマの博物学者大プリニウスは、皮膚の破片から稚魚が生まれると考えていました。これらの仮説は、1887年にイタリアで成熟卵を持つ雌が発見されたことで否定されました。さらに、レプトケファルスがウナギ類の仔魚であることが判明し、ヨーロッパウナギの生活史解明は急速に進みました。

ヨーロッパウナギは、古くから食用とされ、干物、塩漬け、燻製、フライ、煮込み、焼き魚など様々な調理法で食されてきました。ロンドン・イーストエンドのウナギゼリー寄せなどは、郷土料理として有名です。日本と同様に、シラスウナギを成魚まで育てる養鰻場もヨーロッパ各地に存在します。しかし、乱獲や環境汚染により、資源量は激減し、現在では絶滅が危惧されています。特に1990年代からの中国での稚魚養殖と日本への輸出拡大は、資源の激減に大きく影響したとされています。

驚異の長寿：最長飼育記録は約155年

1859年に捕獲されたヨーロッパウナギが、スウェーデンの民家の井戸で飼育され、2014年に死亡が確認されました。約155年間も生きたことになります。これは、ヨーロッパウナギの長寿を示す驚くべき記録です。

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