レプトケファルス

レプトケファルス：謎多き透明な仔魚

レプトケファルス（Leptocephalus）とは、ウナギ目、アナゴ、ハモなどを含むカライワシ上目の魚類に見られる、特徴的な幼生形態のことです。その名の通り、細長く平たい体型で、ゼラチン質の透明な体が特徴です。大きさは数センチメートルから1メートルを超えるものまで様々で、種類によって大きく異なります。

語源と成長過程

ラテン語で「小さな頭」を意味するこの名前は、その形態をよく表しています。ウナギの場合、孵化した仔魚はレプトケファルス期を経て、変態してシラスウナギとなり、河川に遡上して成魚へと成長します。興味深いことに、変態の過程で体のゼラチン質が脱水し、体組織が濃縮されるため、変態前と後で体長が変化します。具体的には、ウナギではレプトケファルス期は約18倍、アナゴは約30倍に成長すると言われています。

食性の謎と解明

レプトケファルスの食性は長らく謎に包まれていました。多くの魚類とは異なり、口の中の歯が前方に向いているため、様々な動物プランクトンを与えてもほとんど捕食しないことが観察されていました。しかし、胃の内容物を詳細に分析した結果、オタマボヤ類が植物プランクトンを濾過摂食するために分泌するゼラチン質の包巣の残骸が発見されました。このことから、レプトケファルスはオタマボヤ類が廃棄した包巣などのマリンスノーを主食としていることが判明し、これを模した人工飼料による飼育にも成功しています。ハモではエビのすり身、ウナギではサメの卵黄を原料とした人工飼料が用いられています。

食用としてのレプトケファルス：「のれそれ」

マアナゴのレプトケファルスは、高知県などでは「のれそれ」と呼ばれ、食用とされています。新鮮な状態で土佐酢や三杯酢につけ、踊り食いとして賞味されるのが一般的です。この呼び名は、大阪などでも用いられていますが、地域によっては「はなたれ（兵庫県淡路島）」、「ベラタ（岡山県）」など、様々な呼び名が存在します。

巨大レプトケファルスとシーサーペントの伝説

1930年、デンマークの調査船ダナ号がセント・ヘレナ島沖で全長1.8メートルという巨大なレプトケファルスを発見しました。この発見は大きな反響を呼び、当時、ウナギ類のレプトケファルスは成長後に数十倍の大きさになることから、この個体が成体になれば数十メートルにも達する可能性があり、「伝説のシーサーペントではないか」と報じる新聞もあったほどです。

しかし、その後、変態途中の巨大レプトケファルスが発見され、詳細な調査の結果、その特徴がソコギス亜目魚類の幼生であることが判明しました。ソコギス類はレプトケファルス期にほぼ成体サイズまで成長し、変態後はほとんど成長しないことがわかりました。これにより、それまで発見されていた巨大レプトケファルスもソコギス亜目の幼生であることが明らかになり、シーサーペントの正体という謎は解明されませんでした。

カライワシ上目と系統分類

ソコギス亜目もレプトケファルス期を持つことが判明したことで、ウナギ目とソコギス亜目との類縁関係が示唆されました。そして、カライワシ類などもレプトケファルス期を持つことから、これらはカライワシ上目という分類群にまとめられました。

まとめ

レプトケファルスは、その特異な形態、謎めいた食性、そして巨大な個体に関する伝説など、多くの謎を秘めた魅力的な生物です。今後の研究により、その生態や進化に関するさらなる知見が得られることが期待されます。

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