仔魚

仔魚（しぎょ）とは

仔魚（しぎょ、英：larva）とは、魚類の成長過程における初期の発育段階の一つで、幼生とも呼ばれます。稚魚（ちぎょ、英：juvenile）と混同されがちですが、発生学的には異なる段階です。仔魚は、魚類が卵から孵化し、骨格や鰭などの基本的な体制を整えるまでの段階を指します。

仔魚の概要

一般的に、仔魚は全長数mm程度で、鰭や臓器の発達が未熟であり、遊泳力もほとんどありません。外敵からの捕食を避け、自ら餌を摂り、適切な成育環境へと移動する必要があるため、生存率は極めて低く、稚魚期に到達できる個体はごくわずかです。この現象は初期減耗と呼ばれ、魚類の生活史を解明する上での重要な問題として、あるいは水産養殖における課題として研究されています。

魚類の繁殖様式は卵生と胎生（卵胎生）に分けられます。現生魚類の大半を占める真骨類の多くは卵生で、海水魚は小型の浮性卵を大量に産む一方、河川などに回帰する鮭鱒類（けいそんるい）等は比較的大きな沈性卵を少数産む傾向があります。仔魚の形態や生活様式、稚魚への変態などの特徴はグループによって大きく異なり、環境への適応および種の存続を図っています。

仔魚の定義と区分

魚類の成長において、どの段階を厳密に「仔魚」として扱うかには様々な見解があります。一般には形態学的な変化に基づき、卵から孵化した後、各鰭の鰭条（きじょう）の原基が出現するまでを仔魚とみなすことが多いです。

仔魚は大きく2つの発育段階、卵黄仔魚期と仔魚期に分けられます。孵化したばかりの仔魚は腹部に卵黄をもっており、卵黄嚢仔魚と呼ばれます。卵黄を発育のための栄養として完全に吸収するまでを前期仔魚、卵黄が消失してから鰭の鰭条が一定数に達するまでの段階を後期仔魚と呼びます。

後期仔魚はさらに、脊索の形態によって前屈曲期・屈曲期・後屈曲期に細分されます。卵黄嚢が吸収された直後は脊索の後端は直線状ですが、次第に背中側に折れ曲がるようになります。脊索の後端からは尾鰭の形成が始まり、尾鰭鰭条が完成したものを後屈曲期の仔魚として扱います。

仔魚の生活史

浮遊生活

仔魚はほとんどの場合表層で生活します。多くの海水魚は浮性卵を産み、孵化した仔魚はそのまま浮遊生活に移行します。一方、沈性卵を産む魚類の場合でも、仔魚の生活場所は表層付近であることが多いです。

卵黄を吸収した後は、仔魚は自力で餌をとることで栄養を補給しなければなりません。仔魚の主な餌は植物プランクトンや動物プランクトンの幼生、特にカイアシ類のノープリウス幼生であることが多いです。初回の摂餌に成功するかどうかは、仔魚の生き残りに大きな影響を与えます。摂餌行動の開始は卵黄が完全に吸収される前であることが多く、餌にありつけなくとも栄養を補うことができる猶予期間となっています。

浮遊生活の期間は魚種によって異なりますが、一般に寒冷な地域ほど長く、熱帯域では短い傾向があります。

接岸回遊

遊泳力の弱い仔魚は潮流・海流の影響を強く受け、広い範囲の海域に拡散します。沿岸域に分布する海産真骨類の場合、浮遊生活を終える時期には本来の生息場所である海岸近くに戻る行動がみられ、これを接岸回遊と呼びます。この時期の仔魚は能動的な遊泳を可能にする身体構造を獲得しているほか、新たな生育環境に対する形態的・行動的適応が発現するなど、接岸回遊の開始は稚魚期への移行と重なる部分が多いです。

接岸回遊は初回摂餌と同様に、仔魚の生き残りにとって重要なイベントです。漂泳生活の間に海岸から遠く離れてしまった仔魚は、接岸できずに死亡する可能性が高まります。また、沿岸に達した後も、限られた生育場所をめぐる他の仔稚魚との競合に勝ち残らねばなりません。

仔魚の形態

浮遊生活への適応

生まれたばかりの仔魚は遊泳力が弱いため、浮力を確保するための適応とみられる特徴的な形態をとることが知られています。体の水分含量を高める、仔魚期のみに浮き袋をもつ、卵黄に油球が存在する、などが挙げられます。

体表面積の拡大もまた、浮力確保には有効な手段です。体を極端に平べったくしたり細長くしたりすることで、相対的な表面積を拡大することができます。体の一部を極端に突出させたものも多く知られています。

消化管の発達

卵黄嚢期の仔魚は胃が未発達ですが、摂餌の開始とともに胃の分化が始まり、消化管全体での消化酵素の合成も活発となります。胃の分化に続いて、魚類に特有の消化管構造である幽門垂の形成が起こり、稚魚の移行時には消化管の体制がほぼ整います。

稚魚への変態

自ら餌を取れるようになり、鰭など体の基本体制を整えた仔魚は、親に似た姿の稚魚へと移行します。仔魚から稚魚への移行にはさまざまな形態変化が生じます。特に劇的な変化は変態と呼ばれますが、一般的な仔魚にみられる形態変化も広い意味で「変態」に含めることがあります。

参考文献

田中克・田川正朋・中山耕至 『稚魚 生残と変態の生理生態学』 京都大学学術出版会 2009年 ISBN 978-4-87698-774-0
岩井保 『魚学入門』 恒星社厚生閣 2005年 ISBN 978-4-7699-1012-1

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