ヨーロッパ特急 (映画)

ヨーロッパ特急

『ヨーロッパ特急』は、1984年に製作・公開された日本の長編映画です。監督は大原豊が務め、俳優の武田鉄矢が主演を務めました。ヨーロッパ大陸を駆け巡る国際特急列車をテーマに、一人の日本人カメラマンと、その正体を隠した王女との出会いから始まるロマンチックな物語が描かれています。

概要

本作の核となるのは、TEE（トランス・エウロープ・エクスプレス）などの欧州を走る国際特急の撮影に人生を捧げるカメラマンと、偶然出会った女性との間に展開されるラブストーリーです。この女性は、実はある国の王女であり、身分を隠して旅をしていました。そのプロットは、往年の名作映画『ローマの休日』を彷彿とさせることから、同作へのオマージュとして位置づけられています。

また、主人公のキャラクター造形においては、著名な鉄道写真家である南正時の人物像がモデルとされており、実際に南氏がヨーロッパで撮影活動を行った際のエピソードが物語の随所に生かされています。鉄道ファンのみならず、異文化の中で育まれる人間ドラマに関心を持つ観客にも魅力的な作品となっています。

ストーリー

物語の始まりは、ヨーロッパ各地を巡りながら列車の写真撮影に情熱を燃やすカメラマン、森田次郎の旅です。彼はアムステルダムに滞在中、ビビアン・リーと名乗る女性と知り合います。泥酔していた彼女をホテルに泊めた次郎でしたが、翌朝目覚めたビビアンは突如として騒ぎ始めます。次郎がアムステルダム中央駅からパリ行きの列車に乗り込んだ矢先、何者かに追われるビビアンが間一髪でその列車に飛び乗ってきます。こうして、思いがけず二人の撮影旅行が始まります。

二人はその後、ブリュッセル、パリ、ドーヴィル、ジュネーヴ、そして水の都ヴェネツィアへと旅を続けます。しかし、行く先々でビビアンを執拗に追う男たちが現れ、旅には常に緊張感が伴います。やがて物語はクライマックスを迎え、ヴェネツィアでビビアンはイタリア警察によって保護されます。この時、次郎は初めて彼女が本物の王女であることを知り、大きな衝撃を受けます。

ビビアンとの突然の別れに打ちひしがれた次郎は、滞在先のホテルでテレビを眺めます。すると、画面には空港で記者会見を行うビビアンの姿が映し出されていました。その光景を目にした次郎は、一目散に空港へと走り出すのでした。

主な出演者・スタッフ

主人公・森田次郎を演じるのは、国民的俳優の武田鉄矢。彼と旅を共にする謎の女性、ビビアン・リー（本名リリアン王女）役には、フランスの女優カブリエル・サニエが起用されました。脇を固める俳優陣には、マリア・シュナイダー、ルネ・クレマン、ミレーヌ・ドモンジョといった国際的な顔ぶれに加え、シャンソン歌手としても知られるジョルジュ・ムスタキらが出演しています。

スタッフとしては、監督と脚本を大原豊が兼任。黒井和男も脚本と製作者として名を連ねています。音楽は林哲司が担当し、主題歌にはポール・スレードの「フレンド」が使用されました。

その他のエピソード

本作は、公開から時を経て意外な場所で高い人気を獲得しました。軍事政権下のミャンマー（当時）でも上映され、多くの人々に支持されたと言われています。さらに、その人気を受けて、2005年にはミャンマー国内で本作のリメイク版が製作されるに至りました。異なる文化圏においても、身分違いのロマンスと旅というテーマが共感を呼んだ事例と言えるでしょう。

本作は、列車という被写体に魅せられた写真家の視点と、束縛された日常から逃れたいと願う王女の心情が交錯する中で、普遍的な人間ドラマとロマンティシズムを描き出した作品です。武田鉄矢のどこか朴訥とした魅力と、カブリエル・サニエのエキゾチックな美しさが、ヨーロッパの美しい風景を背景に巧みに溶け合っています。

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