ライヒスマルク

ライヒスマルク：ドイツの歩みを映す通貨

ライヒスマルク(Reichsmark、RM)は、1924年から1948年までドイツで使用された公式通貨です。その誕生は、1923年にピークを迎えた深刻なハイパーインフレーションへの対応として不可欠でした。当時、経済は混乱の極みにあり、人々は紙幣の価値暴落に苦しんでいました。

ライヒスマルクは、それまでのパピエルマルクに代わる通貨として導入されました。その交換レートは衝撃的なものでした。1ライヒスマルクは1兆パピエルマルクに相当したのです。この大胆な措置は、経済の立て直しを図るための緊急処置でした。しかし、パピエルマルクは直接ライヒスマルクに交換されず、レンテンマルクという臨時通貨を介して交換されました。レンテンマルクは、国内の土地を担保とし、ドイツ・レンテン銀行によって保証されていたため、ある程度の信頼性を確保することができました。

ライヒスマルクは、1ドル4.2ライヒスマルクのレートでドルに連動しており、経済の安定化を目指しました。このドル連動は、国際的な信頼回復にも寄与する狙いがありました。

「マルク」という名称は、古ドイツ語で「通貨」を意味し、12世紀から使われてきた歴史ある言葉です。1871年のドイツ帝国統一後、マルクは主要通貨となり、硬貨は1ペニヒから1マルクまで統一デザインで発行されました。しかし、1マルク以上の紙幣は、帝国の各構成国が独自に発行していました。裏面にはドイツ帝国の国章である鷲の紋章が統一デザインとして用いられていましたが、表面のデザインは各構成国の君主の肖像や、自由都市の場合は市章が用いられるなど、多様性に富んでいました。これらの多様な通貨が、20世紀前半までドイツ国内で共存していたのです。

第二次世界大戦後、ドイツはアメリカ、イギリス、フランス、ソビエト連邦の4ヶ国によって分割占領されました。ライヒスマルクはしばらくの間流通を続けましたが、1948年6月、状況は一変します。ソ連占領地域と米英仏占領地域（トライゾーン）で、それぞれ東ドイツマルク（Mark der DDR、あるいはオストマルク）と西ドイツマルクへの通貨改革が実施されたのです。ライヒスマルクは、この改革によって歴史の幕を閉じました。この通貨改革は、東西ドイツの分断を象徴する出来事であり、後にベルリン封鎖という深刻な国際危機の引き金にもなったのです。

ライヒスマルクの歴史は、単なる通貨の歴史ではありません。それは、ドイツの歴史、特に経済的混乱と復興、そして東西分裂という激動の時代を反映した重要な歴史的証言と言えるでしょう。ハイパーインフレーションからの脱却を試みたその誕生から、東西ドイツへの分断を象徴する終焉まで、ライヒスマルクはドイツの歩みと深く結びついていたのです。ライヒスマルクの登場と消滅は、ドイツの近代史を理解する上で欠かせない要素となっています。

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