ライフ・L190

ライフ・L190：F1世界選手権に挑んだ異色のマシン

1990年のF1世界選手権。イタリアのレーシングチーム、ライフ・レーシング・エンジンズは、独自の技術と挑戦的なマシンLife L190で、世界のトップカテゴリーに殴り込みをかけた。しかし、その挑戦は容易ではなかった。本稿では、L190の開発からレース戦績まで、そのドラマチックな軌跡を詳細に解説する。

誕生秘話：ファースト・L189からの進化

L190のルーツは、ファースト・レーシングチームが1988年にF1参戦を目指して開発を開始したファースト・L189に遡る。元フィッティパルディのエンジニア、リカルド・ディビラが設計を担当し、ジャッドV8エンジンを搭載したこのマシンは、国際F3000で使用されていたマーチ・88Bをベースに開発された。しかし、ディビラの移籍や開発難航により、F1参戦は叶わず、L189はエルネスト・ヴィタに売却された。

ヴィタはL189をベースに、新たなチーム「ライフ・レーシング・エンジンズ」を設立。マシンはライフ・L190と改名され、1990年シーズンのF1世界選手権参戦を目指すこととなる。この時、大きな転機となるのが、ロッキW12エンジンの搭載決定である。

ロッキW12エンジン：革新と挑戦

L190最大の注目点は、元フェラーリのエンジニア、フランコ・ロッキが設計したW12エンジンである。60度W型12気筒、排気量3493cc、最高回転12,500rpmで650馬力を誇るこのエンジンは、F1のレギュレーションに適合するように設計された。コンパクトな設計も特徴で、全長はわずか530mmだった。直接噴射、1気筒あたり5バルブ、4本のオーバーヘッドカムシャフトといった高度な技術が採用されていたが、この革新的なエンジンの開発は、チームにとって大きな負担となった。

当初は他チームへの供給も検討されたが、実現せず、ヴィタは自チームでの使用を決定。結果的に、L189を購入してW12エンジンを搭載するという選択に至った。

車体設計と特徴

L190の車体は、ベネトンやマーチの影響が見られる幅狭の設計であった。しかし、後部には幅広のW12エンジンを搭載していたため、車体後部は大きく膨らんだ独特のシルエットとなっていた。この幅狭な車体は、ドライバーにとって危険性が高いとされ、特にエアインテイクがドライバーの肩の位置に配置されていたことが懸念された。カーボンモノコックシャシーに、プッシュロッド式フロントサスペンション、縦置きギアボックスを組み合わせた設計も、開発上の困難さを物語る。

レース戦績：過酷な現実

ライフ・レーシング・エンジンズは1台体制でシーズンに臨んだ。当初はゲイリー・ブラバムがドライバーを務めたが、開幕2戦で予備予選落ちを繰り返したのちチームを離脱。その後任として、6年ぶりのF1復帰となるブルーノ・ジャコメリがドライブすることとなった。しかし、ドライバー交代後も状況は改善せず、予備予選落ちが続いた。

チームはW12エンジンの使用を断念し、第13戦ポルトガルGPではジャッドエンジンを搭載したマシンを投入するも、予備予選突破には至らなかった。最終的に、第14戦スペインGPをもってチームはF1からの撤退を決定。L190は全戦で予備予選落ちという結果に終わった。

結語

ライフ・L190とライフ・レーシング・エンジンズの挑戦は、F1の歴史において、W12エンジン搭載という革新的な試みと、過酷な現実との対比を鮮やかに示すものとなった。彼らの挑戦は成功には至らなかったものの、F1という舞台に独自の技術と情熱を注いだ、その勇気と挑戦は、今も語り継がれるべき物語と言えるだろう。

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