ラインネッカーSバーン

ドイツ南西部のライン＝ネッカー大都市圏において、重要な都市近郊鉄道ネットワークとして機能しているのが、ラインネッカーSバーンです。2003年12月に運行を開始したこのシステムは、ラインラント＝プファルツ州、バーデン＝ヴュルテンベルク州、ヘッセン州、ザールラント州という広範な地域を跨ぎ、マンハイム、ハイデルベルク、ルートヴィヒスハーフェン、カイザースラウテルンといった主要都市とその周辺を結んでいます。将来的な整備完了時には、総延長約550キロメートル、158駅にも及ぶ巨大な鉄道網となる計画です。

現在の路線網は多岐にわたり、例えばS3系統はバーデン＝ヴュルテンベルク州のカールスルーエ市まで乗り入れています。カールスルーエでは独自の都市近郊輸送システムであるシュタットバーンがS系統の番号を使用していますが、ラインネッカーSバーンとの間で番号の重複がないよう調整が図られています。これは、異なるシステム間での連携と利用者の混乱防止を両立させるための配慮と言えるでしょう。

ラインネッカーSバーンの実現には、長い歴史があります。構想自体は1973年にまで遡り、連邦鉄道（当時のドイツ国鉄）、連邦郵便、そしてマンハイム、ルートヴィヒスハーフェン、ハイデルベルクの各都市が設立した地域交通協会によって、Sバーン計画がスタートしました。当初は1977年の開業を目指していましたが、様々な要因から計画は度重なる延期に見舞われます。プロジェクトが大きく前進したのは1996年3月で、関係する三つの州政府、ドイツ鉄道、そしてライン＝ネッカー運輸連合がSバーンの建設と財政に関する正式な契約に調印したことによります。この契約によって、ノイシュタットやシュパイアーからエーバーバッハ、ブルクサールに至る初期路線網が具体的に決定され、将来的にはカイザースラウテルンやカールスルーエなどへの延伸も選択肢として検討されました。2001年初頭には、Sバーンネットワークのさらなる拡張に向けた二番目の建設・財政契約が結ばれ、整備計画は具体性を増しました。

開業に向けて、大規模なインフラ整備が行われました。Sバーンの運行に必要な線路や駅施設の準備が進められ、建設工事だけで約2億6000万ユーロ、さらに新型車両の購入に約1億9000万ユーロという巨額の投資が行われています。特に、Sバーン運行開始に伴う輸送力増強のために不可欠だったマンハイムとルートヴィヒスハーフェンを結ぶライン鉄道橋の増設は重要な工事でした。また、シュフェルシュタット駅には長距離列車用の新しい迂回線路が建設され、ルートヴィヒスハーフェン中央駅の駅舎も全面的な改築が行われました。Sバーン車両のメンテナンスを行うための専用工場も、ルートヴィヒスハーフェン中央駅構内に新設されています。

利用者の利便性向上とバリアフリー化も重視されました。Sバーンの駅では、車両との段差を少なくするため、ホームの高さを76センチメートルに統一する改修が行われました。これにより、乗降が非常に容易になりました。さらに、一部の主要駅にはエレベーターが設置され、移動の制約がある方も安心して利用できるよう配慮されています。ただし、一部の駅では本格的な改修が完了するまで、一時的に木製の板でホームが嵩上げされるといった対応も見られました。

そして2003年12月14日のダイヤ改正に合わせて、ラインネッカーSバーンはいよいよ営業運転を開始しました。運営権はヨーロッパ連合による競争入札の結果、DBレギオが12年間の契約期間で獲得しました。この入札過程では、地元の交通会社連合とDBレギオ子会社との関係が企業結合法に抵触する可能性が指摘され、地元側が共同入札の申し出を撤回せざるを得なくなるという複雑な経緯もありました。開業後も、ネットワークは着実に拡大を続けました。2006年末にはシュパイアーからゲルマースハイムまでの区間で電化と三つの駅の改修が完了し、同年12月にはザールブリュッケン方面への延伸として、ホンブルクまでのSバーン運行が実現しています。

開業直後から、未だSバーン網でカバーされていない地域への拡大が次の目標として掲げられました。この「第二次建設段階」の企画として、ホンブルク、ブルクサール、カールスルーエ、エピンゲン、ダルムシュタット、ヴォルムスなどへの路線延伸を含む「ライン＝ネッカー運行周期の現実化プログラム2010」が2004年に策定されました。しかし、地方鉄道交通への投資削減や、輸送量増加に対応するための基盤施設整備の遅れなどにより、このプログラムは2年後に見直しを余儀なくされます。

一方で、個別の拡張計画は着実に進展しました。例えば、エピンゲン方面への路線拡張は2000年11月に初めて提案され、2002年8月にはアグラスターハウゼン、フリードリヒスハール＝ヤクストフェルト、エピンゲンへ向かう三路線の電化工事について、非常に高い費用収益指数が得られることが確認されました。これを受けて2007年9月20日に建設・財政契約が調印され、2009年12月からはS5系統がハイデルベルク - エピンゲン間で1時間間隔での運行を開始しました。この路線はネッカー谷線、エルゼンツ谷線などを経由します。さらに2010年6月には、かつての「旧バーデン・オーデンヴァルト鉄道」の一部区間であるメッケスハイム - アグラスターハウゼン間にS51系統の運行も始まりました。

ゲルマースハイムからブルクサールに至る、いわゆるブルーライン線の一部区間もSバーンネットワークに組み込まれました。この区間は2011年12月11日にSバーン路線網に編入され、S4系統の延伸区間として扱われることになりましたが、混同を避けるためにS33という独自の系統番号で運行されています。ゲルマースハイム-グラーベン＝ノイドルフ間の電化や三つの駅の新設・改修工事は2010年7月に始まり、約17ヶ月の期間を要しました。総額約3170万ユーロが投じられ、ほとんどの駅でバリアフリー化が実現しています。

マインツとマンハイムを結ぶ区間でも、Sバーン化が進められました。この区間を運行していた普通列車系統は、2018年6月10日をもってSバーン系統へと転換されました。この区間では、2006年初めから既に425形電車が普通列車として投入されており、Sバーン転換に向けた準備が進んでいました。2012年からは関連駅で改修工事が実施され、特に2015年6月にはディーンハイム駅とフランケンタール南駅という二つの新しい駅が開業し、利便性が向上しています。

使用される車両は、2003年の開業当初からDBAGクラス425形電車が主力として運用されています。2015年10月以降は、開業時に導入された40編成に加え、追加で37編成の425形車両が改造・投入されました。これらの追加車両には、ライン＝ネッカー地域以外の路線で使用されていた普通列車用の車両も含まれています。さらに、ネットワークの拡充とサービス向上を目指し、新型車両の導入も進んでいます。2017年8月には新開発のDBAGクラス463形電車が3編成注文され、その後の追加発注により合計38本の新型車両が供給されました。これらの新型車両は2020年12月から新しい路線へ投入される予定でしたが、先行して2020年9月からはS9系統での運用が開始されています。

このように、ラインネッカーSバーンは長期にわたる計画と段階的な整備を経て、ドイツ南西部における広域都市圏輸送の要へと発展してきました。最終的に総延長550キロメートル、158駅を結ぶネットワークが完成すれば、この地域の住民や訪問者にとって、さらに欠かせない交通手段となるでしょう。

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