ラインハルト・カイザー

ラインハルト・カイザー（Reinhard Keiser, 1674年 1月9日 - 1739年 9月12日）は、ドイツ盛期バロック音楽の主要な作曲家の一人です。彼は主に商業都市ハンブルクを拠点に活躍し、特にオペラ分野で目覚ましい活躍を見せました。生涯で約100曲にも及ぶ膨大な数の歌劇を作曲し、当時のハンブルク市民から熱狂的な支持を得ました。18世紀半ばの重要な音楽評論家ヨハン・アドルフ・シャイベは、彼をゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルやゲオルク・フィリップ・テレマンといった同時代のドイツ音楽の巨匠たちと並ぶ存在として高く評価しています。しかし、その輝かしい成功や高評価とは裏腹に、彼の作品の大部分は長い間顧みられることがありませんでした。

生涯

カイザーは、現在のドイツ中部、ザクセン＝アンハルト州に位置するヴァイセンフェルス近郊の町トイヒェルンの出身です。オルガン奏者で教師であった父ゴットフリートから音楽を学び、11歳からはライプツィヒの有名なトーマス学校に入学。そこのカントルであったヨハン・シェッレや、後に重要な作曲家・オルガン奏者となるヨハン・クーナウに師事し、音楽の基礎を築きました。

1694年にはブラウンシュヴァイク＝ヴォルフェンビュッテル侯の宮廷作曲家となりますが、これに先立つ1692年にはすでに同地を訪れており、1691年に開設されたばかりの大規模な歌劇場で上演される当時の有名なオペラ作品を熱心に研究していたことが伝えられています。このブラウンシュヴァイク滞在中に、彼は最初の歌劇《ケファルスとプロクリス》を手がけました。また、同時代の音楽家ヨハン・マッテゾンの著作によれば、この頃すでにハンブルクで上演された歌劇《アルカディアのバシリウス》が大きな成功を収め、喝采を浴びたと言われています。ブラウンシュヴァイク時代は多産期で、歌劇だけでなく、宮廷からの依頼に応じる形で、アリア、カンタータ、教会音楽、劇付随音楽など幅広いジャンルの作品を作曲し、その才能を発揮しました。

1697年頃からはドイツ北部の重要な港湾都市ハンブルクに永住し、当時ドイツ語オペラ上演の中心であった名門「ゲンゼマルクトオーパー」（後のハンブルク市立歌劇場）の首席作曲家を1717年まで務めました。このハンブルクでの約20年間が、彼の創作絶頂期と言える時期です。彼はここで驚異的な速さでオペラを作曲し続け、約100曲とされる歌劇の多くがこの間に生み出されました。彼のオペラは、物語性豊かな筋書き、感情表現豊かなアリア、そして巧みな管弦楽法によって当時のハンブルク市民から絶大な人気を博し、オペラ作曲家としての揺るぎない地位を確立しました。

1718年、ゲンゼマルクトオーパーが財政難などによりその活動を停止すると、カイザーは新たな職を求めてハンブルクを離れ、テューリンゲンやシュトゥットガルトなどドイツ各地を旅しました。この時期には、フルート、ヴァイオリン、通奏低音のためのトリオ・ソナタといった器楽作品も作曲したとされています。1721年夏に一時ハンブルクに戻るも、市長の招きで赴任したゲオルク・フィリップ・テレマンの影響力増大のためか、わずか数週間で急遽コペンハーゲンへ移りました。

1721年から1727年にかけては、ハンブルクとコペンハーゲンを頻繁に行き来する生活を送り、デンマーク王室礼拝堂の宮廷楽長という名誉ある称号を得ています。その後、ハンブルクの歌劇団が再び活動を試みるものの不安定な状況が続くとカイザーは最終的にハンブルクに戻りますが、歌劇場を取り巻く状況や人々の嗜好は変化しており、彼がかつての黄金期のような成功を再び収めることは困難になっていました。この時期以降、すなわち1722年から1734年にかけて作曲された歌劇で現在まで完全に現存しているのはわずか3作品のみと言われています。

1728年、カイザーはハンブルク大聖堂の音楽監督であるカントルに就任しました。この職に就いてからは、大規模なオペラ作曲は減少し、亡くなる1739年までの約10年間は、主に教会音楽やオラトリオといった宗教音楽の作曲に専念したと考えられています。晩年も、同僚であり友人でもあったゲオルク・フィリップ・テレマンとの個人的な関係は良好でした。テレマンは、カイザーの作品、特にいくつかのオペラの上演に積極的に関わったことが知られています。

作品

ラインハルト・カイザーの作品の核は、なんといっても約100曲に及ぶ膨大な数の歌劇です。ハンブルクで絶大な人気を博したこれらのオペラは、《アルカディアのバシリウス》、《愛されたアドニス》、《美徳の力》、《ローマの騒乱、あるいは高潔なオクタヴィア》、《ナポリの漁師の反乱、あるいは激怒したマザニエッロ》、《愉快な欺瞞、あるいはヴェネツィアの謝肉祭》、《度量の大きいトミュリス》、《うつけ者の公爵ジョドレ》など多岐にわたる題材を扱い、音楽的にも劇的な表現に富んでいました。初期のブラウンシュヴァイク時代やハンブルクでの活動初期には、歌劇以外にも、アリア、デュエット、カンタータ、セレナーデ、教会音楽、オラトリオ、劇付随音楽など、宮廷や歌劇場の需要に応じて幅広いジャンルの作品を作曲しています。晩年はハンブルク大聖堂カントルとして、主に宗教音楽に重点を置きました。

評価と遺産

ラインハルト・カイザーは、17世紀末から18世紀初頭にかけてのドイツにおけるオペラ、特にドイツ語によるオペラ上演の中心地であったハンブルク・オペラの発展に極めて重要な役割を果たしました。彼はその驚異的な多作家ぶりと、聴衆の心を捉える魅力的な音楽によって、当時の音楽界で確固たる地位を築きました。ヨハン・アドルフ・シャイベが高く評価したように、彼はヘンデルやテレマンといった同時代の偉大な作曲家たちと並び称されるべき存在でした。しかし、悲しいことに、彼の作品の多くは出版されず、写譜の形でしか残されなかったため、後の時代に散逸したり、演奏機会が失われて忘れ去られたりしました。現代においては、一部の作品が楽譜として再発見され、演奏される機会も増えつつありますが、その膨大な作品群の全貌解明と本格的な再評価は、今後の研究と演奏活動に委ねられています。

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