ラクロス (人工衛星)

ラクロス（Lacrosse）は、プロジェクト名オニキス（Onyx）としても知られる、アメリカ国家偵察局（NRO）によって運用された合成開口レーダー（SAR）搭載の偵察衛星シリーズです。SARは雲や夜間といった光学観測が困難な状況下でも地表を観測できるため、全天候・昼夜兼用の偵察能力を有します。

本計画の開発は1978年に始まりました。開発初期には、中央情報局（CIA）が光学センサーとレーダーの両方を備える衛星を提案したのに対し、アメリカ空軍はレーダー単独の衛星を推しました。最終的にアメリカ空軍の提案が採用され、レーダー衛星としての開発が進められました。

1988年から2005年までの間に計5機が軌道へ投入されました。衛星本体の設計において、初期の1号機から4号機までは、軌道上で展開される巨大な皿状のアンテナを特徴としていました。これに対し、最後の5号機ではアンテナの形状が長方形の平面型へと変更されています。初期に打ち上げられた衛星の地上分解能は1.5メートルから3メートル程度であったと推測されています。取得された観測データは、TDRS（データ中継衛星）を経由して、ニューメキシコ州のホワイトサンズにある地上局で受信されていたと考えられています。

その機密性の高い任務の性質上、本衛星に関する情報は長期間にわたり厳重に秘匿されていました。しかし、2008年7月になって機密指定が解除され、本衛星の存在が公式に確認されるに至りました。この際、組み立て中の衛星の写真などが公開されたものの、その具体的な性能や能力に関する詳細はいまだ明らかにされていません。さらに2013年、エドワード・スノーデン氏によるアメリカの諜報活動に関する大量の情報暴露を通じて、このプロジェクトの内部的な名称がオニキス（Onyx）であったことが明らかになりました。

興味深い事例として、2015年4月、アメリカ科学者連盟（FAS）は、ロシアのアルタイ光学レーザーセンターが2005年から2010年の間にラクロス衛星の地上からの撮影に成功していたと発表しました。彼らは補償光学を備えた口径60cmの反射望遠鏡を使用し、既に大気圏に再突入した1号機を除く2号機から5号機までの各機を撮影しました。これにより、これまで推測に過ぎなかった衛星の外部形状などが実際に裏付けられる結果となりました。

ラクロス衛星の後継となる計画は、Future Imagery Architecture（FIA）と呼ばれ、将来的に光学衛星とレーダー衛星の能力を統合した新型衛星システムを構築することを目指していました。この大規模な計画はボーイングを中心とする企業連合が受注しましたが、技術的な困難に直面し開発は難航しました。度重なる予算超過と開発の遅延を受け、契約先はロッキード・マーティン社へ変更されましたが、最終的に2005年に計画自体が中止されるという結果に終わりました。

これまでに合計5機のラクロス衛星が軌道に投入されました。2015年時点では、そのうち3機がまだ地球を周回する軌道上に存在しています。これらの衛星は、軌道傾斜角が68度または57度の軌道に投入されています。この軌道特性により、地球上の極域を含むほぼ全ての地表面を観測することが可能となっています。

もう一度検索