TDRS

追跡・データ中継衛星（TDRS）について

追跡・データ中継衛星（Tracking and Data Relay Satellite、TDRS）は、アメリカ航空宇宙局（NASA）およびアメリカ合衆国政府機関が運用するデータ中継衛星のシリーズであり、またその衛星群によるネットワークです。スペースシャトル、国際宇宙ステーション（ISS）、ハッブル宇宙望遠鏡、ランドサット、TRMM、EOSといった人工衛星、さらにはNASAの多数の天体観測衛星との通信に利用されています。

スペースシャトルの退役により一時的にTDRSの通信需要は減少しましたが、その後、欧州補給機（ATV）、日本の宇宙ステーション補給機（HTV）、米国の商業補給船ドラゴンやシグナスとの通信にも利用されています。また、ISSでの実験活動の拡大に伴い、通信容量の増強が求められています。

システムの概要

TDRSシステムは、NASAが実施する全ての有人宇宙ミッションにおける通信を、従来の地上局ネットワークに代わって行うように設計されています。主な目的は、宇宙機が地上と交信できる時間の延長と、転送できるデータ量の増加です。第3世代のTDRSは、以下のサービスを提供しています。

Sバンドマルチプルアクセス（S-band Multiple Access）
機体側面に搭載されたフェーズドアレイアンテナを使用し、一度に5つの衛星からのデータ受信と1つの衛星へのデータ送信が可能です。第2世代までの衛星と比較して、通信速度が向上しています。

Sバンドシングルアクセス（S-band Single Access）
直径15フィートの高利得アンテナを2基搭載し、ISSやハッブル宇宙望遠鏡のような人工衛星とのデータ転送を行います。

Kuバンドシングルアクセス（Ku-band Single Access）
2基の高利得アンテナを使用し、より高い周波数のKuバンドで双方向の動画配信や、データサイズの大きな人工衛星の科学データを送信します。

Kaバンドシングルアクセス（Ka-band Single Access）
同様に2基の高利得アンテナを使用し、さらに高い周波数のKaバンドで800Mbpsという高速通信を実現しています。これにより、大容量のデータ転送が可能になります。Kaバンドの周波数帯は、日本やヨーロッパのデータ中継衛星との互換性が保たれています。

衛星の開発と打ち上げ

初期の7つの衛星はTRW社（現ノースロップ・グラマン）によって開発され、それ以降の機体はボーイング・サテライト・システムズによって開発されました。合計11機が打ち上げられ、現在8機が稼働中です。

初号機（TDRS-1）は1983年にスペースシャトル・チャレンジャーの最初のミッションであるSTS-6で宇宙へ運ばれました。チャレンジャーの軌道から静止軌道へ衛星を移動させるための慣性上段ロケットが正常に作動しなかったため、やむを得ず衛星に搭載されたスラスタを使用しました。これにより衛星の運用寿命が短縮される懸念がありましたが、実際には予定運用期間10年の2.5倍にあたる25年間運用されました。TDRS-1は2009年10月に利用を終え、2010年6月に静止軌道から外され運用を終了しました。TDRS-4は2012年5月に運用を終了しました。

2号機（TDRS-2）は1986年にチャレンジャーの10番目のミッションであるSTS-51-Lで打ち上げられましたが、打ち上げ直後の爆発事故により失われました。その後の5機は別のシャトルによって正常に打ち上げられました。残りの3機はアトラスIIAロケットによって2000年と2002年に打ち上げられました。

地上局

TDRSの地上局は、ホワイトサンズ複合施設に設置され、アメリカ大陸の西側と東側上空の静止軌道に位置するTDRSとの通信を行っています。さらに、インド洋上空のTDRSとはグアム局を経由して通信を行っており、これによりほぼ軌道1周回の通信をカバーしています。ただし、インド洋上空のTDRSはシャトルミッションなど、優先度の高い運用でのみ準備されます。これらの2つの地上局の指揮・管理はゴダード宇宙飛行センターで行われています。また、2016年までのシステム更新に伴い、メリーランド州ブロッサムポイントに新たな地上局が設置される予定です。

衛星の種類

第1世代TDRS：TRW社開発
第2世代TDRS：ボーイング社開発
* 第3世代TDRS：ボーイング社開発

打ち上げ履歴

（詳細な打ち上げ履歴は省略）

利用コスト

TDRSは、米軍、米国以外の宇宙機関、民間企業も利用しており、ULA社のアトラスVロケットなどの追跡にも利用されています。TDRSのバンド幅を最大限（300Mbps）使用した場合、1分間の費用は139ドルとされていますが、現金ではなく科学データと引き換える場合もあります。NASAは現在、1分間当たりのコストで課金するプロセスを廃止し、使用割合に基づく課金に移行しようとしています。2014年からは軍事利用での経費の支払いは廃止され、これは年間7,000万ドルから8,000万ドルに相当します。

注釈

（注釈は省略）

外部リンク

（外部リンクは省略）

もう一度検索