ラスタファリ運動

ラスタファリ運動の概要

ラスタファリ運動、またの名をラスタファリアニズムは、1930年代にジャマイカの労働者層と農民を中心に誕生した宗教的思想の運動です。この運動に関わる人々は「ラスタファリアン」と称され、「ラスタ」との愛称で親しまれています。彼らにとって、ラスタファリは単なる宗教ではなく、豊かな人生観（ライフスタイル）として位置づけられています。

概要

ラスタファリ運動は、聖書を重視しますが、特定の教祖や明確な教義は存在しません。そのため、宗教の枠を超えた思想運動として理解されています。アフリカ回帰の視点から、特にエチオピア帝国の最後の皇帝であるハイレ・セラシエ1世を神聖視し、彼を「ジャー」の化身とみなす考え方が根底にあります。この運動の名は、ハイレ・セラシエの即位以前の名前ラス・タファリ・マコンネンに由来します。

ラスタファリ運動は、社会的抑圧に対する抵抗であり、メシア主義的な側面を持ちます。一方で、千年王国思想に則る現実逃避的な側面もあります。彼らはアフリカ回帰主義やアフリカ中心主義を強調し、菜食主義やドレッドロックスといった独自の生活様式を持っています。

この運動は1970年代にレゲエ音楽と結びつくことで、ボブ・マーリーの活動によって全世界に広まりました。ラスタファリ運動の実践者は、全世界で100万人前後いるとされていますが、ジャマイカ全体の約5〜10%程度がこの運動に従事していると見られています。

歴史的背景

ラスタファリの思想は、18世紀にアメリカで誕生した黒人説教師たちによって「エチオピアは母国」とする信念から発展しました。19世紀には、エジプトとエチオピアが黒人で同一の人種であるという説が広まり、エチオピアニズムが体系化されました。このようにして、アフリカへの帰属意識が強化されていきました。

1920年代には、マーカス・ガーベイがアフリカ回帰を奨励し、「黒人の王が戴冠する時が来る」と発言したことで、ラスタファリ運動の先駆けとされるメッセージが広がっていきました。1930年にハイレ・セラシエ1世が即位すると、これを神の啓示として受け止めた人々が、ジャマイカで初期のラスタファリ運動を始めるきっかけとなりました。

社会の中での影響

ラスタファリ運動は当初弾圧にさらされましたが、世間の認識が高まるにつれて一般市民にも広まっていきました。特に1966年にハイレ・セラシエがジャマイカを訪問した際には、信者たちが熱狂的に迎え入れました。この出来事を契機に、ラスタファリ運動はより広範な理解を得ていきます。また、レゲエ音楽がこの運動のメッセージを広める重要な手段となり、ボブ・マーリーは世界的に名を馳せました。

現代におけるラスタファリ

ボブ・マーリーの死後、ラスタファリ運動は一時期停滞したものの、1990年代には再び活動が活発化しました。信者たちはハイレ・セラシエの復活を「知っている」とし、新たな世代のラスタファリアンが形成されていきました。

ラスタファリ運動では、大麻（ガンジャ）を聖なる植物と見なし、精神的な安息をもたらすとして重視されます。また、菜食主義的な「アイタルフード」を実践し、自然と調和した生活を送ることが求められます。

ラスタファリは、信仰を表現する活動としてナイヤビンギ音楽やドレッドロックス、ラスターカラーの使用があり、コミュニティの絆を深める重要な要素となっています。このようにラスタファリ運動は、単なる宗教的信念を超えた社会的、文化的な運動として今日でも息づいています。

もう一度検索