ラスター作戦

ラスター作戦：ギリシャへの苦闘の足跡

1941年春、第二次世界大戦の激戦地はヨーロッパへと拡大していました。イタリア軍のギリシャ侵攻は失敗に終わり、その後のナチス・ドイツの介入が予想される中、イギリスと連合国はギリシャへの支援を急務としていました。この危機的状況下で実行されたのが、ラスター作戦です。本作戦は、エジプトからギリシャへと、貴重な兵員と物資を輸送することを目的とした大規模な軍事作戦でした。

作戦発動の背景

1941年4月、ギリシャはイタリア軍の侵攻を辛くも撃退していました。イギリスにとってギリシャはヨーロッパにおける数少ない同盟国であり、その放棄は政治的にも大きな痛手でした。さらに、ギリシャの飛行場を確保することで、ドイツの石油供給源であるルーマニアのプロイェシュティ油田への爆撃範囲を拡大できるという戦略的利点もありました。

これらの理由から、イギリス首相ウィンストン・チャーチルはギリシャ支援を最優先事項と位置づけました。連合国中近東総司令官アーチボルド・ウェーヴェルにも、北アフリカ作戦よりもギリシャへの増援が優先されるという命令が下されました。ウェーヴェルの当初の姿勢は消極的と伝えられていますが、最終的には作戦に賛同したとされています。イギリス側は、ギリシャ軍が連合国の支援を得れば、アリアクモン線にてドイツ軍の進撃を食い止めることができると楽観視していました。しかし、この判断は誤りであったとされています。

当時のイギリスの判断は、ドイツ軍のリビア増援（ゾネンブルーメ作戦）が夏までには本格化しないと予測していたこと、そしてギリシャへの増援がドイツ軍の早期勝利を阻止できると考えたこと、この2点に基づいていました。しかし、現代の分析では、ラスター作戦はドイツ軍の侵攻を遅らせるには至らず、かえって北アフリカにおけるイギリス軍戦力を弱体化させる結果を招いたとされています。これは、4月のロンメル将軍率いるドイツ軍の反攻や、5月のイギリス軍ブレビティ作戦の失敗に繋がったと言われています。

輸送作戦の実行

3月4日以降、イギリス海軍とオーストラリア海軍による護送船団が、3日おきにアレクサンドリアとピレウス間を往復するようになりました。イタリア軍による空襲もありましたが、大きな損害を与えるには至りませんでした。初期には、イタリア軍の水雷艇による攻撃もあり、連合国軍は航路をカソス海峡からクレタ島西方のアンティキティラ海峡に変更せざるを得ませんでした。3月にはイタリア海軍による妨害工作も試みられましたが、マタパン岬沖海戦におけるイタリア海軍の敗北により、輸送作戦は続けられました。4月2日までに、約5万8千人の兵員と装備がギリシャに輸送されたのです。

作戦の結末と影響

4月6日、枢軸国によるマリータ作戦が開始されました。これにより、アリアクモン線には連合国軍の一部が配備されましたが、その効果は限定的でした。4月24日以降、デーモン作戦による撤退が始まり、一部の部隊はクレタ島へ移動しましたが、そこでドイツ軍のメルクール作戦に遭遇し敗北を喫しました。ラスター作戦は、ギリシャ戦線における連合国の苦戦と、北アフリカにおける戦力低下という、重大な結果をもたらしたと言えるでしょう。ギリシャ戦線の最終的な敗北は、連合国にとって大きな痛手となり、第二次世界大戦の流れに大きな影響を与えたことは間違いありません。作戦そのものの成否は、様々な解釈があるものの、北アフリカ戦線への悪影響は否定できない事実として残っています。この作戦は、軍事戦略におけるリスクと、その結果として生じる予期せぬ影響を改めて考えさせる、教訓的な事例として歴史に刻まれています。

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