ラテン市民権

ラテン市民権 (Ius Latii) について

ラテン市民権（羅: ius Latii, 英: Latin Right）は、古代ローマがその領域内に住む人々に与えた特別な権利の一つです。「ius Latii」は直訳すると「ラティウムの権利」を意味します。この権利は、元々はローマが盟主であったラテン同盟に参加していた都市の市民に与えられたものでしたが、同盟の拡大に伴い、その適用範囲はラティウム地方を超えて広がっていきました。

このラテン市民権と似た権利として、投票権のないローマ市民権（羅: Civitas sine suffragio, キウィタス・スィネ・スッフラギオ）があります。

ラテン市民権の内容

ラテン市民権は、ローマ市民権を持つローマ市民と、市民権を持たない外国人（ペレグリヌス, peregrinus）の中間的な地位に位置づけられる権利でした。この権利を持つ者は、以下の3つの権利が保障されていました。

コンメルキウム (commercium): ラティウム内のいかなる都市においても、土地の購入や市民同士の契約が法的に認められる権利。
コヌビウム (conubium): ラティウム内のいかなる都市の市民とも婚姻関係を結ぶことができる権利。
ユス・ミグラティオニス (ius migrationis): ラティウム内の都市に移住し、その地に住むことで、その都市の市民権を得ることができる権利。

ラテン市民権を持つ者はローマ法の保護下に置かれましたが、ローマのケントゥリア民会での公職選挙への投票権は与えられませんでした。

ラテン市民権の起源

ラテン市民権は、都市国家ローマとラテン同盟に加盟する都市国家との間で軋轢が生じた際に生まれました。ローマはラテン同盟内の都市との戦いに勝利し、同盟を吸収する形で勢力を拡大しました。この過程で、ローマに完全に合併された地域もあれば、ある程度の自治権を与えられた地域もありました。ラテン市民権は、これらの地域の住民に与えられた権利であり、税制面でローマ市民と同様の待遇を受け、直接税を免除されるなどの恩恵がありました。

ただし、ラテン市民権は、ローマ市民権と比較すると権利は限定的でした。また、ラテン同盟の拡大に伴い、古参の都市と新参の都市の間で待遇に差が生じたと考えられています。古参の都市を指す言葉として、マイウス・ラティヌム (Maius Latinum)、ラティウム・アンティクウム (Latium Antiquum)、ウェトゥス (Vetus) などの呼称が残っています。

ラテン市民権の施行以降、ラティウムの市民は民族や地域による区別がなくなり、ローマから与えられた権利と特権を持つ者として認識されるようになりました。紀元前3世紀には、ラテン市民権は他のラティウム都市にも適用され、紀元前171年には初めてイタリア半島外のヒスパニア属州に適用されました。ラテン市民権の拡大は、ローマが他の都市国家に対する支配力を強めることにつながり、ローマの勢力拡大を意味しました。

ラテン市民権の沿革

ラテン市民権を有する者はラティニタス (Latinitas) と呼ばれましたが、この言葉が意味する範囲は時代とともに変化しました。紀元前91年の同盟市戦争までは、ローマ連合に加盟している都市の市民に与えられた権利でした。

当時の権利の大きさは、「ローマ市民権」を持つローマ市民、「ラテン市民権」を持つラテン市民、同盟都市の市民の順に小さくなっていました。しかし、同盟市戦争後、全イタリア人にローマ市民権が付与されたため、イタリア本土にはラテン市民権を持つ市民はいなくなりました。

その後、カエサルがシチリアとガッリア・トランサルピーナ（ガリア・ナルボネンシス）の属州民すべてにラテン市民権を授与し、ウェスパシアヌス帝がヒスパニアの自治都市にラテン市民権を授与しました。

関連項目

ローマ市民権
* キウィタス・スィネ・スッフラギオ

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