ガリア・ナルボネンシス

ガリア・ナルボネンシス

ガリア・ナルボネンシス（ラテン語: Gallia Narbōnēnsis）は、古代ローマ帝国が支配した属州の一つです。この属州は、現在のフランス南部、具体的にはラングドック地方とプロヴァンス地方にまたがる地域に相当します。地理的には、北東にガリア・アクィタニア、北西にガリア・ルグドゥネンシス、そして西にはヒスパニア・タッラコネンシスといった他のローマ属州と隣接していました。

ガリア・ナルボネンシスは、歴史的に「ガリア・トランサルピナ」（アルプスの向こうのガリア）とも呼ばれ、アルプス山脈を挟んでイタリア本土とは反対側に位置していました。この地域は、ローマ帝国による早期の属州化が進められた地域の一つであり、元老院によって任命されたプロコンスルが統治する元老院属州として重要な役割を担っていました。

歴史

紀元前121年、共和政ローマの執政官であったクィントゥス・ファビウス・マクシムス・アッロブロギクスと前執政官グナエウス・ドミティウス・アヘノバルブスによる遠征によって、ガリア・ナルボネンシスはローマ帝国の支配下に入りました。この地域は、当初「ガリア・トランサルピナ」と呼ばれ、アルプス山脈を越えていないガリア人の居住地域である「ガリア・キサルピナ」と区別されていました。

ガリア・ナルボネンシスは、ローマ帝国の重要な戦略的拠点でした。ローマ本土やヒスパニアと隣接していたため、北方からのガリア人や西方からのイベリア人の侵入に対する緩衝地帯としての役割を担っていました。また、ローヌ川を通じたガリア人との交易拠点としても重要な意味を持っていました。特に、マッスィリア（現在のマルセイユ）は交易の中心地として繁栄しました。

属州の州都はコロニア・ナルボ・マルティウス（現在のナルボンヌ）に置かれ、この都市の名前にちなんで「ガリア・ナルボネンシス」と名付けられました。イタリア本土に近いこともあり、多くのローマ市民がこの地に移住し、ローマ文化が深く浸透しました。大プリニウスは、その著書『博物誌』の中で、ナルボネンシスの貴族や一般の人々がローマ人と変わらない洗練された生活を送っており、「属州というよりもイタリアそのものだ」と評しています。

西ローマ帝国滅亡後

西ローマ帝国が滅亡した後、ガリア・ナルボネンシスは西ゴート族の侵入を受け、その東半分が西ゴート王国の支配下に入りました。その後、フランク王国の支配を経て、ローヌ川を境界として西部が西フランク王国、東部が中部フランク王国に分割されました。この分割の結果、西半分は現在のラングドック地方、東半分はプロヴァンス地方として知られるようになりました。

西半分は、後にウマイヤ朝や後ウマイヤ朝の侵攻を受け、フランク王国との境界地域として発展しました。この地域は、北部フランスとは異なる独特の言語や文化を持つようになり、キリスト教の異端であるカタリ派の温床となりました。アルビジョワ十字軍によって鎮圧されるまで、この地域は半ば独立した文化圏として繁栄しました。現在でもオック語を話す地域として「ラングドック」という名前が残っており、当時の歴史を偲ばせます。

ガリア・ナルボネンシスは、古代から中世にかけて、地中海とヨーロッパ大陸を結ぶ重要な地域として、歴史の中で重要な役割を果たしました。

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