ラドリー・メツガー

アメリカ合衆国の映画製作者、映画配給者、そして映画監督であったラドリー・メツガー（Radley Metzger, 1929年 1月21日生 - 2017年 5月31日没）は、特にその後のキャリアにおいて、ヘンリー・パリスという別名義でも広く知られています。この名義は、彼が1970年代以降に制作・監督したハードコアポルノ映画で使用されました。ニューヨーク出身のメツガーは、映画業界で多岐にわたる活動を展開し、特に性的なテーマを扱いながらも芸術的な完成度を追求したことで、独自の地位を確立しました。

メツガーのキャリアは、映画編集者として始まりました。初期には、『Flesh Eaters』のような作品の編集を担当したほか、イタリアのネオレアリズモ映画『にがい米』のようなヨーロッパ映画の検閲による削除作業にも関わっています。さらに、高名な映画監督イングマール・ベルイマンの作品の予告編をいくつか編集するなど、その才能は編集分野でも発揮されていました。これらの経験は、後の監督としての彼の映像感覚や構成力に大きな影響を与えたと考えられます。

監督業に転じてからのメツガーは、1960年代から1970年代にかけて隆盛を極めたセクスプロイテーション映画、そしてより洗練されたスタイルを持つ「ポルノシック」と呼ばれるジャンルの中心人物として認識されています。彼の作品は、単に性的な描写を行うだけでなく、美しい映像、凝ったセットデザイン、衣装、そして巧みなカメラワークによって特徴づけられました。特に、撮影技師ハンス・ユーラーとの密接な協業が多く、フランスやイタリアといったヨーロッパ各地で数多くの作品を制作しました。この国際的な環境での制作は、彼の作品に独特のヨーロッパ的な美意識と雰囲気を加えることとなりました。

彼の代表的な監督作品には、ビゼーのオペラを自由奔放に翻案した『カルメン・ベビー』（1967年）、官能的な人間ドラマを描いた『女と女』（1968年）、デュマの椿姫を下敷きにした『炎』（1969年）、そして批評家からも高い評価を得た『イマージュ』（1975年）などがあります。ハードコア作品としては、『Score』（1973年）や『絶頂の日々/マダム３（スリー）エックス』（1975年）、そして最も有名な『ミスティ・ベートーベン』（1976年）などがあります。『ミスティ・ベートーベン』は、ヘンリー・パリス名義での作品ですが、この分野における彼の才能を決定づけるものとなり、1976年に開催された成人映画協会（AFAA）の第1回授賞式において、初代の最優秀監督賞を受賞しました。また、主演のジェイミー・ギリスも最優秀主演男優賞を獲得しています。この作品は後年、DVD化された際にもAVNベスト・クラシックDVD賞を受賞するなど、その評価は揺るぎないものとなっています。

ラドリー・メツガーは、長年にわたる映画界への貢献が認められ、成人映画業界で最も権威ある賞の一つであるAVN殿堂、そしてXRCO殿堂の双方に名を連ねています。これは、彼がこの分野で築き上げた功績と影響力の大きさを示すものです。

メツガーは1984年に映画界から引退しました。その後、彼は2017年 5月31日に88歳でその生涯を終えました。編集者としてキャリアをスタートさせ、セクスプロイテーションからポルノシック、そしてハードコアへと、時代の流れと共に自身のスタイルを進化させたラドリー・メツガーは、性的なテーマを扱いながらも、常に映像表現の可能性と芸術性を追求し続けた、映画史において特異な存在感を放つ人物と言えるでしょう。彼の作品は、単なるポルノとしてではなく、その洗練されたスタイルと独自の視点から、今なお多くの映画愛好家や批評家によって語り継がれています。

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