ラノステロール

ラノステロール：動物と菌類のステロイド前駆体

ラノステロールは、動物と菌類の細胞に広く存在するステロイドの一種です。化学式はC30H50O、分子量は426.7で、IUPAC命名法ではラノスタ-8,24-ジエン-3-オールと呼ばれます。別名ラノステリンとも呼ばれ、CAS登録番号は79-63-0です。常温では無色の固体として存在し、融点は138～140℃です。ラノリン中に豊富に含まれていることからその名が付けられました。

生理学的役割と生合成経路

ラノステロールは、コレステロールを始めとする様々なステロイド化合物の生合成における重要な中間体として知られています。しかしながら、それ自体の明確な生理学的役割については、まだ完全に解明されていません。

ラノステロールの生合成は、スクアレンから始まります。まず、スクアレンエポキシダーゼという酵素によって、スクアレンは(3S)-2,3-エポキシスクアレン（オキシドスクアレン）に変換されます。次に、オキシドスクアレン環化酵素（ラノステロールシンターゼ）の作用により、オキシドスクアレンは環化反応を起こし、プロトステロールカチオンを生成します。最後に、プロトステロールカチオンから水素イオンが抜けることで、ラノステロールが生成されます。

ラノステロールとシクロアルテノール：プロトステロール

ラノステロールは、動物と菌類（オピスタコンタ）に特徴的なステロールです。一方、植物や原生生物などの他の真核生物では、シクロアルテノールが同様の役割を担っています。ラノステロールとシクロアルテノールはどちらも、すべてのステロイド化合物の出発物質となるため、まとめてプロトステロールと呼ばれています。

ラノステロールを生成する酵素とシクロアルテノールを生成する酵素は、アミノ酸配列において高い相同性を示し、進化的に近縁であることが示唆されています。真核生物の共通祖先では、シクロアルテノールが合成されていたと考えられており、シクロアルテノールの方がラノステロールよりも古い起源を持つと考えられています。オピスタコンタの祖先において、シクロアルテノールを合成する酵素（シクロアルテノールシンターゼ）のアミノ酸配列に変異が起こり、ラノステロールシンターゼが誕生したと考えられています。

まとめ

ラノステロールは、動物と菌類におけるステロイド生合成の中心的な化合物であり、様々なステロイドの出発物質として重要な役割を担っています。その生合成経路は、スクアレンからオキシドスクアレンを経て、ラノステロールシンターゼによる環化反応によってラノステロールが生成されるという一連の反応から構成されています。ラノステロールとシクロアルテノールは、真核生物におけるステロイド生合成における進化的な関係性を示す重要な化合物群です。今後の研究により、ラノステロールの生理学的役割に関する理解がさらに深まることが期待されます。

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