ラハティ交響楽団

フィンランド南部に位置するラハティ市を本拠とするラハティ交響楽団（フィンランド語ではシンフォニア・ラハティ）は、その歴史を1910年に遡る由緒あるオーケストラです。当初は自主運営の団体として活動を開始しましたが、1949年にはラハティ市の管轄となり、より安定した運営基盤を得ました。

楽団の歴史において、最も劇的な転換期となったのは、1988年にオスモ・ヴァンスカが首席指揮者に就任してからのことです。ヴァンスカのリーダーシップのもと、ラハティ交響楽団の活動は飛躍的に活発化し、その演奏水準は著しく向上しました。特に、フィンランドを代表する作曲家であるジャン・シベリウスの作品への取り組みは特筆すべきものでした。彼らはシベリウス作品をレパートリーの中核に据え、その演奏と録音は国内外で極めて高く評価されるようになります。

ヴァンスカ時代における最大の功績の一つは、シベリウス作品の「初稿版」の演奏と録音に世界で初めて本格的に取り組んだことです。具体的には、ヴァイオリン協奏曲ニ短調や交響曲第5番変ホ長調、交響詩『エン・サガ』といった、作曲家自身が後に改訂を施したこれらの作品の、初期の姿を音として蘇らせました。この画期的な試みは、シベリウス研究における音楽学的意義にとどまらず、聴衆に馴染み深い完成版とは異なる魅力を提示し、世界のクラシック音楽界に大きな衝撃を与えました。

これらの録音は数々の栄誉に輝きました。特に、ヴァイオリン協奏曲の初稿版を収録したCDは1991年にイギリスのグラモフォン賞を受賞し、交響曲第5番および交響詩『エン・サガ』の初稿版CDは、1996年に再び英グラモフォン賞に加えてフランスのカンヌ・クラシカル・ワードも受賞するという快挙を成し遂げました。これらの成功により、ラハティ交響楽団は単なる「フィンランドの一地方オーケストラ」という枠を超え、「シベリウス演奏のスペシャリスト」として国際的な名声を確立しました。

日本のクラシックファンにもその名は広く知られるようになりました。1999年には初の来日公演が実現し、金沢、大阪、そして東京などで演奏を披露しました。特に東京公演（すみだトリフォニーホール）では、4日間にわたりシベリウスの全交響曲演奏という意欲的な企画を行い、フィナーレを飾る交響曲第5番では、広く知られる最終版に加えて、ヴァンスカ時代に大きな話題となった初稿版も演奏し、聴衆を大いに沸かせました。その後も2003年と2006年に再来日を果たし、2003年の公演は日本のクラシック音楽誌『音楽の友』によってその年のベスト・コンサート第1位に選ばれるなど、日本でも高い評価を受け続けました。さらに、シベリウス生誕150周年にあたる2015年にも来日し、東京（東京オペラシティ）と札幌で公演を行い、東京では再びシベリウス交響曲全曲演奏を行いました。

本拠地については変遷があります。長らくラハティ市の中心部にあったフェリックスクローンホールを使用していましたが、2000年3月、ヴェシヤルヴィ湖畔にシベリウスホールが完成したことに伴い、そこを新たな活動拠点としました。市の中心部からはやや離れていますが、優れた音響を持つこのホールは、楽団の演奏活動に新たな環境をもたらしました。

オスモ・ヴァンスカ退任後も、楽団は精力的な活動を続けています。首席指揮者としては、2011年から2016年までオッコ・カムが、2016年から2021年までディーマ・スロボデニュークが務め、2021年からはダリア・スタセヴスカがそのポストに就いています。また、2008年から2011年にはユッカ＝ペッカ・サラステが首席客演指揮者を務めました。

シベリウス作品のほかにも、ラハティ交響楽団はフィンランド音楽の録音に積極的に取り組んでいます。カイ・カヤヌスやエイノユハニ・ラウタヴァーラといった作曲家の作品を取り上げるほか、1992年以降楽団のレジデンス・コンポーザーを務めているカレヴィ・アホの交響曲や管弦楽曲の録音も数多く手掛けています。

シベリウス作品の探求におけるパイオニアとしての功績、そしてフィンランド音楽への貢献は、ラハティ交響楽団を国際的にユニークな存在として位置づけています。

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