ラファエル前派

ラファエル前派（Pre-Raphaelite Brotherhood）

ラファエル前派とは、19世紀中頃のヴィクトリア朝イギリスで活動した美術家及び批評家の集まりであり、また詩作も行ったグループです。この運動は、その後の印象派と並んで象徴主義美術の先駆者として位置づけられています。

グループの形成

ロイヤル・アカデミー付属美術学校の学生たちであるダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ウィリアム・ホルマン・ハント、ジョン・エヴァレット・ミレイの三人は、古典美術に固執する教育方針に対して反発を覚えました。彼らは1848年に「ラファエル前派」を結成し、ラファエロ以前の芸術に立ち返ることを目指しました。後に、ロセッティの弟であるウィリアム・マイケル・ロセッティや他の芸術家たちもメンバーに加わり、団体の活動はより広がりを見せました。ラファエル前派という名称は、イタリアのルネサンス期の巨匠ラファエロの理論と美術を否定する意味が込められており、表現方法としては中世および初期ルネサンスの芸術に基づいています。彼らは「P.R.B.」という署名を用いることで、初期段階の秘密結社的な性格を強調しました。

活動と理念

ラファエル前派は美術活動だけでなく、機関誌『The Germ』を発行するなどして英語圏の艺术界にも大きな影響を及ぼしました。彼らの理念は一貫して文言化されることはなく、ロセッティの弟ウィリアムによって後年整理されました。主な理念としては、本物のアイディアの重要性、自然の観察を通じて表現技法を学ぶこと、過去の芸術に対する敬意を持ちつつも自己顕示や形式化を拒否すること、そして優れた作品創作が掲げられています。

作風の特徴

ラファエル前派の絵画には独特な特徴が見られます。特に扱うテーマは中世の伝説や当時の文学をモチーフにしており、キリスト教的な主題にも独自の解釈を持ち込んでいます。画風は15世紀北方美術や初期ルネサンスのスタイルを模倣し、明るい色彩、細密な描写、明暗のコントラストが弱い画面構成が特徴的です。彼らは自然の真実性を重んじ、人物モデルを忠実に描こうとし、しばしば野外で制作を行いました。

妥協と影響

ラファエル前派の作品には、細部が緻密に描かれる一方で、遠近法の不在や無理のある構図が見受けられ、全体的なリアリズムに欠ける点もあります。思想的な要素では、同時代の美術批評家ジョン・ラスキンの影響が色濃く、彼の「自然をそのまま再現すべき」とする考え方が作品に強く反映されています。しかしながら、組織的な運動としては長続きせず、1853年のミレイの準会員就任を契機に、グループは次第に解散していきました。

日本への影響

ラファエル前派の影響は明治時代の日本にも及び、美術家や文学者に多大な刺激を与えました。特に、青木繁や藤島武二などの美術家、そして夏[[目漱石]]を始めとする文学者たちがその影響を受けており、詩人の蒲原有明はロセッティの詩の翻訳に取り組むなど、両者の交流が見られました。藤島武二の作品においても、ラファエル前派の影響が色濃く表れています。全体として、ラファエル前派は芸術運動としての枠を越え、幅広い文化的影響を及ぼす存在となりました。

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