ラム・イット・ダウン

『ラム・イット・ダウン』は、イギリスを代表するヘヴィメタルバンド、ジューダス・プリーストによって1988年に世に送り出された、通算11作目のオリジナルスタジオアルバムです。また、このアルバムの幕開けを飾る楽曲のタイトルでもあります。オリジナル盤はコロムビア・レコードから、日本盤はソニー・ミュージックからリリースされました。

過去には何度かデジタルリマスター盤が市場に投入されていますが、大半は2001年に初めて登場したリマスター音源が基となっています。ただし、日本では2012年2月に、2011年に新たに施されたリマスター音源を用いた独自の規格盤（SICP-3403）が発売された記録があります。

作品解説

前作『ターボ』で、バンドは先進的なシンセサイザーを大々的に導入し、いわゆる「モダン・ヘヴィメタル」という新たな領域を切り開こうと試みました。しかし、この実験的なサウンドは、伝統的なヘヴィメタルスタイルを好む多くの既存ファンから「ジューダス・プリーストらしくない」として、必ずしも好意的に受け入れられませんでした。

こうした状況を踏まえ、本作の制作においては、ファンとの間の距離を縮めることに主眼が置かれました。歌詞においては、これまでのアルバムで時に見られた複雑で難解な表現を排し、極めて直接的かつ明快な言葉遣いが採用されています。『ヘヴィ・メタル』、『アイム・ア・ロッカー』、『モンスターズ・オブ・ロック』といった、タイトル自体が非常に分かりやすい楽曲が多く並び、特にバンドとファンを結ぶ揺るぎない絆が主要なテーマとして描かれています。

サウンド面では、シンセサイザーの要素は引き続き多く用いられているものの、プロダクションは前作から変化し、より攻撃的で鋭いエッジを持つものとなりました。特にタイトル曲である『ラム・イット・ダウン』や『ハード・アズ・アイアン』などは、非常にアグレッシブな楽曲として知られ、その激しさはロブ・ハルフォード自身がスラッシュメタルに言及するほどであったと言われています。こうしたハードなサウンドの探求は、次作『ペインキラー』で結実する、さらに強力な音楽性の方向性を示す重要な伏線となりました。

アルバムには、ロックンロールの伝説であるチャック・ベリーの代表曲『ジョニー・B・グッド』のカバーが収録されています。これは、ある映画のサウンドトラックへの提供を映画会社から打診されたことを受けて制作されたものです。アルバム全体を通じて見ると、直接的な商業性を意識したアプローチは、このカバー曲に限定されるとされています。この楽曲はシングルカットされ、プロモーションビデオも制作されました。

興味深い制作背景として、バンドのマネジメントの提案により、当初は当時人気を博していたプロデューサーチーム、ストック・エイトキン・ウォーターマンとの共同作業が計画されていました。1988年1月にパリで行われた会談では、彼らが提示した楽曲をジューダス・プリーストが実験的にレコーディングしてみましたが、その楽曲群がバンドのヘヴィメタル観とは大きくかけ離れていたため、結局このユニークな企画は実現しませんでした。最終的には、長年にわたりバンドのサウンドを支えてきたトム・アロムが再びプロデュースを担当することとなりました。

本作の制作・発表が行われた当時、ジューダス・プリーストは依然として、音楽における倫理的な問題提起を行うペアレンツ・ミュージック・リソース・センター（PMRC）をはじめとする社会的な監視の目、批判的な世論に晒されていました。その風潮は過敏なものとなり、例えばバンドのマネジメントスタッフがアルバムタイトル『RAM IT DOWN』が性的な連想や女性蔑視を招きかねない、と懸念を表明するほどでした。メディア側も及び腰になり、MTVは、倫理的な抗議団体からの反発を恐れ、『ジョニー・B・グッド』のプロモーションビデオの放送には消極的な姿勢を見せました。さらに、ファンに向けて意図的にストレートにしたはずの歌詞も、皮肉にも一部のファンからは再び「ジューダス・プリーストらしくない」との批判を受ける結果となりました。

本作のリリース後、バンドのドラマーであるデイヴ・ホーランドは個人的な理由により、1989年にバンドを離れました。また、プロデューサーであるトム・アロムとの共同作業も本作が最後となりました。興味深い偶然ですが、デイヴ・ホーランドとトム・アロムは共に、バンドの代表作の一つである1980年のアルバム『ブリティッシュ・スティール』で初めてジューダス・プリーストのレコーディングに参加しています。

収録曲

LP盤では、1曲目から5曲目までがA面、6曲目から10曲目までがB面として構成されています。全曲の作詞・作曲・編曲は、特記なき限りグレン・ティプトン、ロバート・ハルフォード、K. K. ダウニングによるものです。

1. ラム・イット・ダウン（RAM IT DOWN）- 4分49秒
2. ヘヴィ・メタル（HEAVY METAL）- 5分58秒
3. ラヴ・ゾーン（LOVE ZONE）- 3分58秒
4. カム・アンド・ゲット・イット（COME AND GET IT）- 4分7秒
5. ハード・アズ・アイアン（HARD AS IRON）- 4分8秒
6. ブラッド・レッド・スカイズ（BLOOD RED SKIES）- 7分50秒
7. アイム・ア・ロッカー（I'M A ROCKER）- 3分58秒
8. ジョニー・B・グッド（JOHNNY B. GOODE）- 4分39秒
- 作詞・作曲：チャック・ベリー、編曲：グレン・ティプトン、ロバート・ハルフォード、K. K. ダウニング
9. ラヴ・ユー・トゥ・デス（LOVE YOU TO DEATH）- 4分36秒
10. モンスターズ・オブ・ロック（MONSTERS OF ROCK）- 5分31秒

リマスター盤ボーナストラック

2001年以降のリマスター盤には、未発表のライブ音源がボーナストラックとして追加収録されています。これらは同じライブパフォーマンスから、連続して演奏された楽曲です。

1. 夜が来たりて（ライヴ）（NIGHT COMES DOWN (LIVE)）- 4分33秒
- 作詞・作曲・編曲：グレン・ティプトン、ロバート・ハルフォード
2. ブラッドストーン（ライヴ）（BLOODSTONE (LIVE)）- 4分5秒
- 作詞・作曲・編曲：グレン・ティプトン、ロバート・ハルフォード、K. K. ダウニング

クレジット

ジューダス・プリースト

ロブ・ハルフォード：ボーカル
グレン・ティプトン：リードギター
K. K. ダウニング：リードギター
イアン・ヒル：ベース
デイヴ・ホーランド：ドラムス

スタッフ

プロデュース - トム・アロム
エンジニア - ヘンリック・ニルソン
アレンジ & Co-プロデュース - グレン・ティプトン、ロブ・ハルフォード & K.K. ダウニング

スタジオ

レコーディング & ミキシング - Puk Studios, Denmark
マスタリング - The Town House, London

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