ラルフ・バクシ

ラルフ・バクシ（Ralph Bakshi）は、1938年10月29日にパレスチナのハイファで生まれた、アメリカを代表するアニメーション作家です。幼少期に家族と共にアメリカへ移住し、ニューヨーク州ブルックリンで育ちました。

彼は早くからアートの才能を示し、高校時代にはベスト漫画家賞を受賞しています。卒業後、1956年にCBSのテリートゥーンに入社し、『マイティ・マウス』などのテレビアニメシリーズの制作に携わりました。その実力は高く評価され、わずか26歳でスタジオ・ディレクターに就任するなど、キャリアの初期から頭角を現しました。

1967年にパラマウントのアニメーション部門に移籍しますが、わずか数ヶ月で部門が閉鎖されたため、これを機に独立し、自身のプロダクションを設立します。

独立後、プロデューサーのスティーブ・クランツとの共同で、ロバート・クラムのアンダーグラウンド・コミックスを原作とする長編アニメーション『フリッツ・ザ・キャット』の監督を務めました。1972年に公開されたこの作品は、アニメーションとしては史上初めて成人指定を受けるという異例の扱いとなり、当時のアニメーション界に衝撃を与え、大きな話題を呼びました。これは、アニメは子供向けのメディアであるという一般的な認識を覆す、画期的な出来事でした。

『フリッツ・ザ・キャット』の成功に続き、バクシは1973年に『Heavy Traffic』、1975年には『Coonskin』といった、より社会的なテーマや都市の現実を描いた作品を発表します。特に『Coonskin』（日本では『ストリートファイト』として知られる場合も）は、その描写が一部から強い抗議を受け、わずか2日間で劇場公開が中止されるという経験をしました。この論争と商業的な困難を経て、彼は比較的論争の少ない題材としてファンタジーに関心を移します。

1977年には、独創的な世界観を持つファンタジー映画『ウィザーズ』を制作。そして1978年には、J・R・R・トールキンの壮大なファンタジー小説を原作とする『指輪物語』の長編アニメーション化を手がけました。この作品の制作にあたっては、実際の俳優の演技を撮影し、それをアニメーションに描き起こす「ロトスコープ」という技法を全編にわたって多用し、独特の動きとリアリティを追求しました。

その後も精力的に作品を発表し、1981年にはアメリカのポピュラー音楽の歴史を追う実験的な作品『アメリカン・ポップ』、1982年には人気ファンタジー画家フランク・フラゼッタの原画を基にした『ファイヤー&アイス』を監督しています。

バクシのキャリアは長編劇場用アニメーションに留まらず、テレビシリーズやスペシャル番組、短編、さらには実写作品や、声優としての参加など、多岐にわたります。彼の作品は、その独特なアートスタイル、大人向けの主題、そして社会に対する批判的な視点などから、常にアニメーションの可能性を広げようとする意欲に満ちていました。アニメーション界において、彼は商業的な成功と芸術的な挑戦を両立させた稀有な存在として、独自の地位を確立しています。

彼の主な作品（監督または作者）：

『フリッツ・ザ・キャット』（1972年）
『ウィザーズ』（1977年）
『指輪物語』（1978年）
『アメリカン・ポップ』（1981年）
『ファイヤー&アイス』（1983年）
『新マイティマウス』（TV シリーズ）（1987年〜1988年）
* 『クールワールド』（1992年）

もう一度検索