ラングハンス巨細胞

ラングハンス巨細胞（Langhans giant cell）

ラングハンス巨細胞は、炎症反応の中でも特に肉芽腫性疾患と呼ばれる病態において観察される、非常に特徴的な巨大細胞です。通常の体細胞よりもはるかに大きく、病理組織学的な診断において重要な指標の一つとされています。この細胞は、特定の感染症や炎症プロセスに対する生体の細胞性免疫応答が活発に行われている病巣にしばしば出現します。

形態的特徴

ラングハンス巨細胞の最も識別しやすい特徴は、その巨大なサイズと、細胞内に多数の核が存在することです。一般的な細胞が通常1つまたは2つの核を持つに過ぎないのに対し、ラングハンス巨細胞は数十個に及ぶ核を持つことがあります。これらの核は、細胞の中央に集まるのではなく、細胞質の周縁部（細胞膜の近く）に環状または馬蹄形に配列している点が特徴的です。この独特な核の配置は、顕微鏡下でラングハンス巨細胞を同定する際の決定的な手がかりとなります。

形成メカニズム

この巨大な細胞は、単一の細胞から分裂して大きくなるのではなく、複数のマクロファージ（病変部では類上皮細胞と呼ばれる、活性化し形態変化したマクロファージが主体となります）が融合することによって形成されます。炎症部位に集積したマクロファージは、サイトカイン（細胞間の情報伝達物質）などの刺激を受けると、互いに細胞膜を融合させて一つの大きな細胞となります。実験条件下（in vitro）では、特にインターフェロンγといったサイトカインが、マクロファージの融合を強く誘導することが知られています。これは、生体内での細胞融合も特定の免疫シグナルによって制御されていることを示唆しています。

病理学的意義と臨床的関連

ラングハンス巨細胞が観察される病変は、強い細胞性免疫応答、特に遅延型過敏反応が関与していることが多いです。このような細胞が見られる代表的な疾患は、結核をはじめとするマイコバクテリア感染症です。これらの感染症では、抗酸菌に対する免疫反応の結果として肉芽腫が形成され、その肉芽腫の中心部に乾酪性壊死（チーズ状の壊死）を伴うことがよくあります。このような乾酪性肉芽腫の存在は、結核などの診断を強く示唆する病理学的特徴であり、ラングハンス巨細胞はその肉芽腫を構成する重要な要素の一つです。したがって、生検組織などでラングハンス巨細胞が多数認められた場合、医師は結核などの感染症を強く疑い、さらなる検査を進めることになります。結核以外にも、サルコイドーシスやクローン病など、他の肉芽腫性疾患で見られることもありますが、典型的な結核性肉芽腫における出現頻度や形態的特徴が特に重要視されます。

名称の由来

この細胞は、ドイツの著名な病理学者であるテオドール・ラングハンス（Theodor Langhans, 1839-1915）によって初めて詳細に記載され、彼の名にちなんで命名されました。

鑑別上の注意

名称が似ているためしばしば混同されがちですが、ランゲルハンス細胞（Langerhans cell）とは全く異なる種類の細胞です。ランゲルハンス細胞は主に皮膚や粘膜に存在する樹状細胞の一種であり、抗原提示を主な機能とする免疫細胞です。一方、ラングハンス巨細胞は病変部に形成されるマクロファージの融合体であり、その機能や病理学的意義はランゲルハンス細胞とは異なります。両者を混同しないよう注意が必要です。

まとめ

ラングハンス巨細胞は、マクロファージの融合によって形成される多核の巨大細胞であり、特に核が細胞周縁に馬蹄形に配列するという独特な形態を持ちます。結核などの特定の感染症や炎症における活発な細胞性免疫応答を示す肉芽腫に特徴的に見られ、病理診断においてこれらの疾患を示唆する重要なマーカーの一つです。その発見はテオドール・ラングハンスによるものであり、名称の由来となっています。形態や名称が似ているランゲルハンス細胞とは区別されるべき細胞です。

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