マクロファージ

マクロファージ：生体防御の要

マクロファージは、アメーバのように移動する食細胞として知られる白血球の一種です。その名の通り、微生物や死細胞、異物などを積極的に捕食し、体内の清掃を行う役割を担っています。特に、外傷や炎症部位ではその活性が著しく高まります。単に清掃を行うだけでなく、免疫システムの中核を担う抗原提示細胞としても機能し、生体の恒常性維持に必須の細胞です。

マクロファージの発見と起源

マクロファージは、1892年にイリヤ・メチニコフによって発見されました。メチニコフは、この細胞が積極的に異物を貪食する様子を観察し、「マクロファージ（大きな食細胞）」と命名しました。この発見は、免疫学の礎を築いた業績として、1908年のノーベル生理学・医学賞受賞に繋がりました。

マクロファージは、骨髄で成熟する単球から分化します。血液中の単球は、約2日間循環した後、血管壁を通過して組織へと移動し、そこでマクロファージへと変化します。組織内では、リソソームなどの細胞小器官を増加させ、消化酵素を蓄積することで、貪食能力を高めます。マクロファージは分裂によって増殖することもでき、寿命は数ヶ月程度です。進化の過程においても古くから存在し、脊椎動物から無脊椎動物に至るまで、広範囲の動物で見られます。興味深いことに、B細胞などの他の白血球や、血管、心臓を構成する細胞とも共通の起源を持つことが分かっています。

マクロファージの多様な機能

1. 食作用： マクロファージの主要な機能は、病原体や死細胞などの異物を細胞内に取り込み、分解する食作用です。炎症初期には好中球が、後期にはマクロファージが中心となって、組織の修復を行います。貪食された異物は、食胞と呼ばれる小胞に包まれ、リソソームと融合することで、加水分解酵素によって分解されます。

2. 抗原提示： マクロファージは、食作用によって取り込んだ異物を処理し、その断片をMHCクラスII分子と結合させて細胞表面に提示します。この抗原提示は、ヘルパーT細胞と呼ばれるリンパ球にシグナルを伝達し、免疫応答の開始に不可欠な役割を果たします。ヘルパーT細胞は、マクロファージが提示する抗原を認識し、活性化されます。活性化されたヘルパーT細胞は、サイトカインを産生し、マクロファージの活性化やB細胞の活性化を促進します。活性化されたB細胞は抗体を産生し、抗体と抗原が結合した複合体をマクロファージが効率的に貪食することで、感染防御をより強固にします。

3. 活性化： マクロファージは、T細胞が産生するサイトカインによって活性化されます。サイトカインの種類によって、マクロファージの機能や活性化状態は変化します。古典的活性化(M1)では炎症を促進し、一方、選択的活性化(M2)では炎症を抑制します。一般的には、M1が先に働き、その後M2が炎症を収束させるという役割分担が考えられています。最近の研究では、これら以外にも様々な活性化状態が存在することが示唆され、マクロファージの機能の多様性が注目されています。マクロファージが放出するサイトカインは、血管の細胞に作用し、免疫細胞の遊走を促進します。肥満の人では、脂肪細胞からM1マクロファージの活性化因子が誘導されやすいことも知られています。

マクロファージの多様な存在部位と役割

マクロファージは、体内の様々な組織に存在し、それぞれの組織において特異的な役割を担っています。例えば、骨を吸収する破骨細胞、脳における小膠細胞、皮膚のランゲルハンス細胞、肝臓のクッパー細胞、肺の塵埃細胞などが挙げられます。

マクロファージと疾患

マクロファージは、感染防御において重要な役割を果たしますが、その機能異常は様々な疾患に関与します。例えば、過剰な活性化は炎症や組織の破壊を引き起こし、アテローム性動脈硬化の進行にも関与します。また、一部の病原菌やウイルスは、マクロファージの貪食作用を回避し、細胞内に潜伏感染することで、感染症の発症や慢性化に繋がります。結核菌やHIVなどは、マクロファージに感染することで、長期間に渡り潜伏感染し、後に重篤な病気を引き起こす場合があります。

まとめ

マクロファージは、生体の恒常性維持に必須の細胞であり、その多様な機能は、感染防御から組織修復、免疫調節まで多岐に渡ります。一方で、マクロファージの機能異常は、様々な疾患の発症や進展に関与していることが明らかになりつつあります。マクロファージの機能を深く理解することは、様々な疾患の治療法開発に繋がると期待されています。

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