ランタイムライブラリ

ランタイムライブラリとは

ランタイムライブラリとは、プログラムが実行される際に、メインプログラムと常に同時に存在し、利用されることを前提としたライブラリのことです。標準Cライブラリなどが代表例として挙げられます。

概要

C言語を例に挙げると、`main`関数が実行されると、標準出力へのアクセスやコマンドライン引数の取得が可能になります。これはOSやコンパイラが直接初期化しているのではなく、`main`関数を呼び出す関数内に存在する「スタートアップルーチン」と呼ばれる初期化処理によるものです。また、`puts`などの標準ライブラリ関数はランタイムライブラリに実装されており、ヘッダーをインクルードするだけで利用できます。このように、言語に必要な標準的な機能を提供するライブラリがランタイムライブラリです。

Cランタイムライブラリは、OSに標準搭載されていることもあり、Linuxの`libc`、Androidの`Bionic libc`、Windowsの`Universal CRT`などがその例です。

処理系との関係

ランタイムライブラリは、単なるライブラリというよりも、言語機能を支える処理系の一部としての側面が強く、特にC++では例外処理や`new`/`delete`、静的変数の初期化などがランタイムライブラリに依存しています。これらの機能は、コンパイル時にすべてのコードを生成すると冗長になるため、ランタイムライブラリの関数として共通化されています。ガベージコレクションなども、より大きな例として挙げられます。そのため、ランタイムライブラリは明示的にリンクを指定しなくても、リンカによって自動的にリンクされます。

また、ランタイムライブラリはデバッグ用とリリース用など、用途に応じて複数のものが存在しますが、リンカはコンパイルオプションに応じて適切なライブラリを選択します。

インターフェース的にも密結合であるため、静的リンクされることが多いですが、動的リンクの場合でも、遅延ロードではなくプロセスの起動時に一括でロードされることもあります。

ランタイムライブラリの除去

CおよびC++には、OSに依存しないフリースタンディング環境というものが定義されており、Cのフリースタンディング環境では、標準ライブラリ関数は一切存在しません。また、エントリーポイントも`main`である必要はなく、グローバル変数の初期化も不要です。このような環境では、ランタイムライブラリは必要ありません。ただし、C++はOSなしの環境でも最低限の言語機能を実現するため、ランタイムライブラリが必要となります。

ランタイムライブラリは、フリースタンディング環境だけでなく、コンパイラのオプションによって強制的に除去することもできます。例えば、gccでは`-nodefaultlibs`、Visual C++では`/NODEFAULTLIB`を指定することで、標準のランタイムライブラリを除去できます。これにより、実行ファイルの軽量化や、`TinyCRT`のような第三者提供のランタイムライブラリの使用が可能になります。特に軽量化は、デモシーンで重要な技術となっています。

再配布時の注意点

多くのリンカは、ランタイムライブラリを動的リンク形式で選択します。これは容量削減と脆弱性対策の観点から好ましいのですが、プログラムを実行するコンピュータに、対応するランタイムライブラリが存在しないと、プログラムは異常終了してしまいます。

再配布先でランタイムライブラリが存在しない状況としては、以下のようなものが挙げられます。

再配布先のコンピュータにインストールされている共有ランタイムライブラリのバージョンが一致しない。
再配布したプログラムが、開発用のランタイムライブラリとリンクしている。

ランタイムライブラリは、同じコンパイラシリーズでもバージョン間でバイナリ互換性がないことがあり、動的リンクモジュールはバージョンに応じて名前を付けて管理されていることがあります。そのため、プログラムをビルドしたコンパイラに対応するバージョンの共有ランタイムライブラリが必要になります。

バージョン不一致への対策としては、ランタイムライブラリを静的リンクするか、プライベートモジュールとして同梱する方法があります。ただし、静的リンクや同梱は、セキュリティパッチの恩恵を受けられないという欠点もあります。

共有ランタイムライブラリは、再配布可能パッケージやOSの更新プログラムとして導入できますが、これらはエンドユーザー向け（リリースビルド用）のランタイムライブラリのみで、開発者向け（デバッグビルド用）のランタイムライブラリは含まれていません。デバッグ用とリンクしたプログラムを配布すると、異常終了を引き起こす可能性があります。

特に問題が発生しやすい要因としては、以下が挙げられます。

開発環境ではデバッグ用のランタイムライブラリが暗黙的にインストールされるため、その存在を意識しにくい。
デバッグオプションの有無だけでライブラリが切り替わるため、どちらのライブラリを使っているか自覚しにくい。
リリース用とデバッグ用で見た目に大きな違いがない。

これらの問題への対策として、開発ツールがインストールされていない環境で動作確認を行うことが重要です。

まとめ

ランタイムライブラリは、プログラムの実行に不可欠な要素であり、開発者はその役割と特性を理解しておく必要があります。特に再配布時には、適切なランタイムライブラリを選択し、トラブルを避けるための注意が必要です。

脚注

動作環境
* ライブラリ

もう一度検索