ランボルギーニ・イオタ

ランボルギーニ イオタ：伝説のレーシングカーとその複雑な歴史

イオタ(Lamborghini Jota)とは、イタリアの自動車メーカー、ランボルギーニが1969年に開発したレーシングカー、そしてそのレプリカ車両を指す通称です。その誕生には、テストドライバーであるボブ・ウォレスの情熱と、当時ランボルギーニ社内で禁じられていたレースへの強い願望が深く関わっています。

車名の由来：Jからイオタへ

開発車両は当初「ボブの車」「ボブのおもちゃ」と呼ばれていました。[国際自動車連盟]の競技規則付則J項に適合するよう製作されたことから「J」と呼ばれ、これがイオタという名前につながります。「J」は近代西洋諸言語、特にイタリア語では発音できないため、スペイン語読みの「JOTA(ホタ)」となり、さらに「イオタ」と発音されるようになったのです。ランボルギーニ社は「イオタ」という名称を公式には認めていませんが、一般的にこの名称で知られています。オリジナルの「J」以外の車両は「イオタ・レプリカ」と呼ばれ、書籍などでは「ミウラ・イオタ」や「ミウラP400SVイオタ」といった呼称も用いられます。

オリジナル「J」：ミウラを凌駕するレーシングマシン

オリジナルの「J」は、ボブ・ウォレスの主導の下、ミウラをベースに製作されました。勤務時間外に「ミウラ改良のための先行開発」という名目で進められたこのプロジェクトは、当時のランボルギーニ社のレース出場禁止という社是を巧みに回避したものでした。

シャシはリアセクションを除き新規設計され、サスペンション、ステアリングラックの位置なども変更。鋼鉄と軽合金を使用し、軽量化が図られました。トレッド幅も拡大され、コニ製レーシングサスペンション、ベンチレーテッドディスクブレーキ、軽量マグネシウム合金カンパニョーロ製センターロックタイプのホイールを装備。ボディパネルはブラインドリベットで接合され、ミウラとは異なる特徴的な外観となりました。ルーフはミウラを流用しましたが、前後のカウルはアルミニウム合金製で、ヒンジ開閉ではなく取り外し式。エアアウトレット、大型フロントウィスカー、左右フェンダー上の給油口など、レーシングカーとしての機能美が追求されています。

パワートレインはミウラのものをベースに、圧縮比の向上、カムシャフトの変更、電子点火、ドライサンプ潤滑、ストレートエキゾーストシステムなどの改良を加え、最高出力は公称440ps(ボブの実測値は402ps)に達しました。内装はミウラとは異なり、レーシーで質素な作りとなっています。

オリジナル「J」の最期

約3万キロの走行実験後、オリジナル「J」はシャシーナンバー#4683を与えられ、転売を経て、カーコレクターであるアルフレッド・ベルポナー氏の手元に渡りました。しかし1971年4月28日、納車前のテスト走行中に高速道路で横転事故を起こし、焼失してしまいました。この事故でオリジナル「J」は修復不可能な損傷を受け、廃車となりました。搭載されていたエンジンは、その後別のミウラに搭載されました。

イオタ・レプリカ：伝説の継承

オリジナル「J」の存在が知られるようになると、ランボルギーニは同様の仕様を希望する顧客の要望に応え、ミウラをベースとしたレプリカ車両の製造、もしくは既存ミウラの改造を行うようになりました。これらはミウラSVJ(Sprint Veloce Jota)と呼ばれ、近年ではイタリア本国のランボルギーニ社による生産証明書とシャシーナンバーが付与されたものも存在します。

イオタは、ボブ・ウォレスの情熱と才能、そしてランボルギーニ社の技術力の結晶です。その短い生涯と悲劇的な最期は、多くのカーマニアの心に深く刻まれています。 オリジナル「J」は現存しませんが、レプリカを通じてその伝説は今も受け継がれています。

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