ラヴァリー〜恋人のように

『ラヴァリー〜恋人のように』は、グラミー賞受賞歴を持つアメリカ合衆国のジャズ歌手、カサンドラ・ウィルソンが2008年に発表したスタジオ・アルバムです。原題は『Loverly』。

背景

本作は、ウィルソンにとって1988年のアルバム『ブルー・スカイ』以来、実に20年ぶりとなるスタンダード曲を中心とした選曲で構成されています。このアルバムに収録された楽曲の中で、ウィルソン自身のオリジナル曲はバック・バンドとのインプロヴィゼーションから生まれた「アレーレ」の1曲のみです。アルバムのレコーディングには、当時ウィルソンと同じくブルーノート・レコードに所属していたピアニストのジェイソン・モランが参加しています。モランは過去にウィルソンのツアー・バンドに参加した経験はありましたが、スタジオ録音での共演は本作が初めてとなりました。

内容と特徴

アルバムには、「恋人よ我に帰れ」や「キャラヴァン」、「セント・ジェームズ病院」といったジャズやポピュラー音楽の古典ともいえる楽曲が多数収録されています。ウィルソンは自身の卓越したボーカル技術と、バンドメンバーとの密接な連携によって、これらの馴染み深いスタンダード曲に新たな息吹を吹き込んでいます。特に、唯一のオリジナル曲である「アレーレ」は、参加ミュージシャンとの自由な即興演奏から生まれたものであり、このアルバムが単なるスタンダード集に留まらない、実験的かつクリエイティブな側面を持っていることを示唆しています。バンドメンバーには、ギターのマーヴィン・スーウェル、ベースのロニー・プラキシコやレジナルド・ヴィール、ドラムスのハーリン・ライリーらが名を連ね、ウィルソンのボーカルを支える確固たる演奏を展開しています。

反響と評価

本作はアメリカ国内の主要な総合アルバム・チャートであるBillboard 200へのチャートインは逃しましたが、ジャズ専門チャートでは健闘を見せました。『ビルボード』のジャズ・アルバム・チャートでは最高3位を記録し、期待の新人アーティストなどを対象としたトップ・ヒートシーカーズ・チャートでも19位にランクインしました。特に大きな成果としては、第51回グラミー賞において最優秀ジャズ・ボーカル・アルバム賞を受賞したことが挙げられます。これはウィルソンにとって、1996年の『ブルー・ライト・ティル・ドーン』での最優秀ジャズ・ボーカル・パフォーマンス賞受賞以来、12年ぶりとなるグラミー賞受賞となりました。

音楽批評家からの評価も概ね高く、オールミュージックのThom Jurekは5点満点中3.5点を付け、「彼女は風変わりでリスクを恐れないジャズ・グループを起用して、アメリカン・ソングブックの重要な部分を取り上げ、これらの曲が本来持つ気品や魅力を損なうことなく新しい深み、質感、意味を追加している」と評し、ウィルソンとバンドによる楽曲の再構築を高く評価しました。また、『ニューヨーク・タイムズ』紙のベン・ラトリフは、このアルバムを「いかなる理由においても（曲が優れているからというだけではない）、ここ長年における彼女の最高傑作」と絶賛しました。さらにラトリフは、「自然体であることも大切だが、本作はモランの混合的でジャンルを無視したピアノ・ソロから、ウィルソンの極めてスモーキーな声の全音域を駆使した思慮深いフレージングに至るまで、美しく構築されたレコードである」と具体的に言及し、参加ミュージシャンの演奏とウィルソンのボーカルの両面における完成度の高さを称賛しました。

収録曲

1. 恋人よ我に帰れ - "Lover Come Back to Me"
2. 黒いオルフェ - "Black Orpheus"
3. ラヴァリー（素敵じゃない?） - "Wouldn't It Be Loverly"
4. 風と共に去りぬ - "Gone with the Wind"
5. キャラヴァン - "Caravan"
6. あなたに逢えるその日まで - "'Til There Was You"
7. スプリング・キャン・リアリー・ハング・ユー・アップ・ザ・モスト - "Spring Can Really Hang You Up the Most"
8. アレーレ - "Arere"
9. セント・ジェームズ病院 - "St. James Infirmary"
10. ダスト・マイ・ブルーム - "Dust My Broom"
11. ザ・ヴェリー・ソート・オブ・ユー - "The Very Thought of You"
12. スリーピン・ビー - "Sleepin' Bee"

※収録曲の括弧内は作曲者等、ハイフン以降は時間ですが、ここでは割愛。

参加ミュージシャン

カサンドラ・ウィルソン - ボーカル
マーヴィン・スーウェル - ギター
ジェイソン・モラン - ピアノ
ロニー・プラキシコ - アコースティック・ベース
レジナルド・ヴィール - アコースティック・ベース (on 11.)
ハーリン・ライリー - ドラムス
レカン・ババロラ - パーカッション (on 1. 2. 4. 5. 6. 8. 9. 10.)
ロンダ・リッチモンド - バックグラウンド・ボーカル (on 8.)

『ラヴァリー〜恋人のように』は、カサンドラ・ウィルソンが長年培ってきたジャズの解釈力と、優れたバンドメンバーとの相互作用によって、古き良きスタンダード曲に新たな生命を吹き込んだ傑作と言えるでしょう。グラミー受賞という栄誉も、このアルバムの高い音楽性を証明しています。

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