ラーコーツィの独立戦争

ラーコーツィの独立戦争（1703年 - 1711年）は、ハプスブルク帝国の絶対主義支配に対し、ハンガリーが自由を求めて起こした重要な紛争であり、スペイン継承戦争と連動して展開しました。

戦争の背景

この戦争は、ハプスブルク家とハンガリー間の政治権力の不平等を是正しようとした貴族たちによって引き起こされ、ラーコーツィ・フェレンツ2世が指導しました。彼らは社会の権利を守り、ハンガリーの経済的・社会的独立を保つことを目指しました。しかし、この自由回復の試みは、ヨーロッパの勢力均衡を崩しかねず、絶対主義を否定するものとして鎮圧されました。

戦争までの経緯

1678年、フランス王ルイ14世の支援を受けたテケリ・イムレ伯爵が、ハプスブルク帝国に対する反乱を起こしました。反乱軍はクルツと呼ばれ、ハプスブルクの支配を嫌う戦士たちでした。テケリはハンガリー北部を占領し、オスマン帝国の支援を受けましたが、1683年にオスマン帝国が敗れると、テケリはハンガリーから撤退しました。

1690年、神聖ローマ皇帝レオポルト1世はトランシルヴァニアを王領ハンガリーに組み入れ、1699年のカルロヴィッツ条約で、ハプスブルク帝国はオスマン帝国が支配していたハンガリーのほぼ全域を獲得しました。これにより、ハンガリーはハプスブルク帝国の支配下で再統合されました。しかし、ハンガリーはハプスブルク家によって植民地同然に扱われ、貴族たちはハプスブルク宮廷の強圧的な政策に反発しました。彼らの先祖がオスマン帝国に奪われた領地は、厳しい条件のもとでしか返還されず、農奴たちは貧窮に苦しんでいました。

1697年には再び反ハプスブルク反乱が起きましたが、すぐに鎮圧されました。ハプスブルク政府の役人は農奴を手荒く扱い、皇帝軍の兵士たちは略奪行為を働き、アントニオ・カラファ将軍は貴族や裕福な市民を殺害し、悪名を轟かせました。

指導者の出現

1676年、ラーコーツィ・フェレンツ2世は名門貴族のラーコーツィ家出身として生まれました。父の死後、母はテケリ・イムレと再婚し、テケリの敗北後、母と継父は亡命しました。ラーコーツィ自身はウィーンで育ち、1694年にシャーロシュの伯爵となり、ハンガリーで最も富裕な領主となりました。

1697年、ラーコーツィ家の所領の一部であるへジャリャ地方で新たな蜂起が起こり、反乱軍はラーコーツィに指導者となるよう頼みました。しかしラーコーツィはこれを拒否し、ウィーンに戻って身の潔白を証明しました。その後、ラーコーツィはウングヴァールの領主ベルチェーニ・ミクローシュ伯爵と親しくなり、ベルチェーニの影響を受け、ハプスブルク絶対主義からのハンガリー解放を理想とするようになりました。

独立のための戦い

フランスはオーストリア・ハプスブルク家に対抗するため、ラーコーツィと協定を結び、ハンガリー独立のために戦うことを約束しました。しかし、この協定が発覚し、ラーコーツィは1700年に逮捕され、ヴィーナー・ノイシュタットの要塞に収監されました。ラーコーツィは脱獄に成功し、ポーランドに逃亡し、ベルチェーニと再会してフランス宮廷との協定を再発効させました。

スペイン継承戦争が勃発すると、ハンガリー王国内のオーストリア軍が離れたため、クルツ反乱軍が新たな蜂起を再開し、ラーコーツィを指導者に推しました。1703年6月15日、ラーコーツィは反乱軍に合流し、民族解放戦争に身を投じることを決意しました。農奴たちは「オーストリアとの戦いに参加すれば自由身分を与える」というラーコーツィの約束に期待し、続々と反乱軍に加わりました。反乱軍はハンガリー王国の大部分を支配下に置き、ラーコーツィはドゥナーントゥールの征服に乗り出しました。

中小貴族の中には、ラーコーツィのカリスマ性に引かれて反乱軍に寝返る者も現れました。ラーコーツィの政治目標は貴族身分の政治主権の回復でしたが、上級貴族たちは不参加を決め込んでいました。オーストリア側はラーコーツィ軍との交渉を余儀なくされました。反乱軍はゲリラ戦を得意とする軽騎兵が主体でしたが、皇帝軍がスペイン継承戦争で手一杯であったため、ハンガリーの反乱軍を抑えることは困難でした。

しかし、1704年 8月13日、オーストリア軍はブレンハイムの戦いでフランス＝バイエルン連合軍に勝利し、フランス＝バイエルン＝ハンガリー連合軍によるウィーン占領構想は崩れ去りました。ラーコーツィは軍事的にも経済的にも厳しい状況に追い込まれ、フランスからの支援も滞るようになりました。資金不足を解決するためラーコーツィは銅貨を発行しましたが、普及せず失敗に終わりました。1706年以後は占領地域から退き始めました。

1705年9月、ラーコーツィはハンガリー王国の統治首長に選ばれました。1705年 10月27日、クルツ反乱軍と皇帝ヨーゼフ1世は和平交渉を始めましたが、トランシルヴァニアの主権をめぐって対立しました。1706年、ラーコーツィの妻と姉が和平使節として送られてきましたが、ラーコーツィは彼女たちの言い分を聞こうとしませんでした。

1707年 6月13日、議会はハプスブルク家をハンガリー王位から排除することを宣言しました。しかし、この王位排除立法も、銅貨発行によるインフレ回避もどちらも反乱軍の崩壊を食い止めることは出来ませんでした。ルイ14世はラーコーツィとの条約締結を拒否し、ハンガリー人たちは孤立無援となりました。

1708年 8月3日のトレンチーンの戦いで、ラーコーツィは落馬して意識を失い、クルツ反乱軍は彼が死んだと思い、戦場から逃げ去りました。この敗退が蜂起の事実上の終焉となり、多くの指導者たちが皇帝に忠誠を誓いました。1710年、ラーコーツィはロシア皇帝ピョートル1世に協力を仰ぐためロシアに赴きましたが、その間にカーロイ・シャーンドルが皇帝との和平交渉を行い、1711年4月30日にサトマールの和約を結びました。ラーコーツィは和約を信用せず、ポーランドに亡命し、残りの生涯を亡命者として過ごしました。

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