ラーヤ・マッラ

ラーヤ・マッラ（生没年不明 - 1509年）は、中世ネパールのバクタプルを拠点としたマッラ朝の一派の君主であり、1482年から1509年までその地位にありました。彼の治世は、長らく統一されていたマッラ朝が分裂し、ネパールの歴史における重要な転換期と重なります。

ラーヤ・マッラは、マッラ朝の最盛期を築いたヤクシャ・マッラの息子として生まれました。父ヤクシャは生前、広大な領土を築き上げましたが、その死に際して、自身の築いた王国を息子たちに平等に分割相続させるという意向を示したとされています。この父王の遺言は、ラーヤが単独で円滑に王位を継承する上で大きな障害となりました。さらに、ラーヤ自身が比較的大人しく柔和な性格であったことも、その後の不安定な状況の一因となったと考えられています。

1482年に父ヤクシャ・マッラが崩御すると、ラーヤは名目上はバクタプルの王位を継承しました。しかし、父王の遺志や自身の穏やかな気質ゆえに、彼は他の兄弟たちとの共同統治体制を敷かざるを得なくなりました。王国は事実上、いくつかの勢力圏に分かれ、兄弟たちがそれぞれの領域を支配する形式的な連合のような状態となったのです。

この兄弟による共同統治は長続きしませんでした。特に、ラーヤの弟であったラトナ・マッラは、この体制に強い不満を抱いていました。ラトナ・マッラは、強力な指導力と野心を兼ね備えていたと伝えられています。そして、共同統治開始からわずか2年後の1484年、ラトナ・マッラはついにバクタプルの支配から離反することを決断しました。彼はカトマンズへと向かい、そこで独立した王朝を樹立しました。これが、後にカトマンズ・マッラ朝と呼ばれるようになる勢力の始まりです。

ラトナ・マッラによるカトマンズでの新王朝樹立は、統一マッラ朝の決定的な分裂を意味しました。これにより、ネパールのカトマンズ盆地には、バクタプルを中心とするラーヤ・マッラの勢力、カトマンズを中心とするラトナ・マッラの勢力、そして他の兄弟たちが支配するパタンなどの地域勢力が鼎立する、いわゆる「マッラ朝三都時代」へと移行する端緒が開かれたのです。ラーヤ・マッラは、この混乱と分裂の中で、バクタプルの君主として統治を続けました。

彼の治世は、父ヤクシャ・マッラの築いた広大な王国の統一が崩壊し、都市国家が分立する時代の幕開けを見届けることとなりました。ラーヤ・マッラは1509年に死去し、その跡は息子のブヴァナ・マッラが継承しました。ラーヤ・マッラの時代は、マッラ朝の歴史において、繁栄の頂点から分裂と群雄割拠へと向かう激動の時期に位置づけられます。

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