リゴレット

オペラ『リゴレット』：ヴェルディ中期の傑作

『リゴレット』（Rigoletto）は、ジュゼッペ・ヴェルディが作曲した全3幕のオペラです。1851年、ヴェネツィアのフェニーチェ座で初演され、ヴェルディ中期の代表作として高い評価を得ています。このオペラは、ヴィクトル・ユーゴーの戯曲『王は愉しむ』を原作としていますが、当時の検閲制度の影響を受け、幾多の改変を経て完成に至った複雑な歴史を持っています。

作曲の経緯：検閲との闘い

1850年4月、ヴェルディはフェニーチェ座から新作オペラの作曲を依頼されます。わずか10か月という短い制作期間の中で、台本作家フランチェスコ・マリア・ピアーヴェと協力して作品作りを進めました。当初はユーゴーの『王は愉しむ』をオペラ化しようとしましたが、この戯曲はフランスで上演禁止となっていたため、ヴェネツィアの検閲当局の許可を得られるかどうかに懸念がありました。

ヴェルディとピアーヴェは、原作に忠実でありながらも、検閲を通過できるよう、様々な改変を施しました。タイトルは『呪い』などが候補に挙がりましたが、最終的には『リゴレット』に決定しました。主人公トリブレもリゴレットと改名され、舞台はフランス王政下からイタリアの独立領主領へと変更されるなど、原作からの変更点は多岐に渡ります。検閲当局との交渉は難航し、何度も修正を重ねた末、1850年12月30日、ようやく改変内容が合意されました。

舞台構成と登場人物

『リゴレット』は全3幕構成ですが、演出によっては第1幕を2場に分けて4幕で上演されることもあります。主な登場人物は、以下の通りです。

マントヴァ公爵（テノール）： 好色で奔放な君主。
リゴレット（バリトン）： 公爵に仕えるせむしの道化師。ジルダの父。
ジルダ（ソプラノ）： リゴレットの娘。16歳の純粋な少女。
スパラフチーレ（バス）： 殺し屋。
マッダレーナ（メゾソプラノ/アルト）： スパラフチーレの妹。

その他、公爵の廷臣や伯爵、伯爵夫人なども重要な役割を担っています。オーケストラは、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーン、ティンパニ、弦楽器などで構成されています。

あらすじ：呪いと復讐の物語

16世紀のマントヴァを舞台に、公爵の放蕩と、リゴレットの娘ジルダをめぐる悲劇が描かれます。公爵に呪いをかけたモンテローネ伯爵の言葉、そしてリゴレット自身の復讐劇が、物語の中心となっています。

第1幕: 公爵の舞踏会で、リゴレットは嘲笑の的となり、モンテローネ伯爵から呪いをかけられます。一方、ジルダは公爵に恋をします。廷臣たちはリゴレットへの復讐としてジルダを誘拐します。

第2幕: 誘拐されたジルダを心配する公爵、そしてジルダの行方を追うリゴレット。ジルダの純粋な愛と、リゴレットの復讐の誓いが交錯します。

第3幕: スパラフチーレの宿屋で、公爵はマッダレーナに惹かれます。リゴレットはスパラフチーレに公爵暗殺を依頼しますが、ジルダが公爵を救おうと身を挺し、悲劇的な結末を迎えます。

有名なアリアと重唱

『リゴレット』には多くの名アリアと重唱が存在します。

『あれかこれか』（Questa o quella）： 公爵のアリア
『二人は同じ』（Pari siamo）： リゴレットのモノローグ
『慕わしき御名』（Caro nome）： ジルダのアリア
『女は気まぐれ』（La donna è mobile）： 公爵のカンツォーネ
『美しい愛らしい娘よ』（Bella figlia dell'amore）： 4重唱

これらの楽曲は、オペラの魅力をさらに高めています。

検閲とユーゴー

『リゴレット』は、検閲の影響を強く受けた作品です。ユーゴーは、著作権料を受け取らなかったことに怒り、ヴェルディを訴訟で争いました。そのため、パリでの初演はイタリアでの初演より6年も遅れました。しかし、ユーゴー自身も、ヴェルディの重唱の巧みな構成に感嘆したと伝えられています。

まとめ

『リゴレット』は、検閲との闘い、そして愛と復讐の物語を通して、人間の業を深く描いた傑作オペラです。その音楽、ドラマ性、そして歴史的背景も含めて、多くの人々を魅了し続けています。

もう一度検索