リジェ・JS35

リジェJS35：期待を裏切った「マッコウクジラ」

1991年、リジェチームはミッシェル・ポイジョンとフランク・ダーニーが設計したリジェJS35でF1世界選手権に挑みました。前年モデルJS33の後継として、パワフルなランボルギーニ製V12エンジンを搭載。ウィリアムズから移籍したティエリー・ブーツェンと、国際F3000チャンピオンのエリック・コマスという強力なドライバー陣容を迎え、大きな期待が寄せられました。

しかし、開発は難航。開幕前テストは旧型JS33を使用せざるを得ない状況でした。ようやく完成したJS35は、非常に細いフロントノーズに対し、コクピットに向かって大きく膨らむ独特のフォルム。他チームのマシンと比較するとずんぐりとした印象を受け、報道陣からは「マッコウクジラ」、あるいは「モビーディック」という、F1マシンとしてはあまり褒められたものではないニックネームが付けられました。

期待外れのシーズン開幕と改良への苦闘

シーズン開幕戦を迎えると、JS35の戦闘力の低さが露呈。予選ではブーツェンが20位前後を争うなど、期待を大きく下回る結果に終わりました。第2戦終了後には、ブーツェンの移籍は失敗だったという酷評が飛び交い、JS35の設計に大きな疑問符が投げかけられました。

この状況を打開すべく、第3戦サンマリノGPから改良版JS35Bが投入されました。インダクションポッドの大型化やサイドポンツーンの形状変更など、空力性能の向上が図られました。特に、地元フランスで開催された第7戦フランスGPでは、大統領ミッテランの来場も相まって、注目を集めました。ウォームアップセッションでは、ブーツェン4位、コマス5位という好成績を収め、関係者を喜ばせましたが、これは軽い燃料搭載量によるものであり、決勝ではコマス11位、ブーツェン12位と振るわなかった。

その後もJS35Bは、ドイツGPでのコマスの大クラッシュや、日本GP予選でブーツェンが記録したシーズン最高位10位など、いくつかの話題を生むものの、大きな躍進には至りませんでした。日本GPでは、コマスも一時7位まで順位を上げましたが、オルタネーター故障により入賞を逃しました。

結局、JS35はシーズンを通して入賞を果たせず、最高位は7位が2回のみ。F1優勝経験のあるブーツェンですら、年間ノーポイントに終わるという、チームにとって大きな失望となるシーズンとなりました。ブーツェン自身も、マシンの挙動の不安定さや、メカトラブルの多さを指摘しています。

開発陣の証言とJS35R

シーズン終了後、デザイナーのフランク・ダーニーは、JS35のモノコックの出来の悪さを認め、次期マシンJS37の開発は全てを一からやり直さざるを得なかったと語っています。JS35の実戦投入開始時点ですでにJS37の開発に着手しており、リジェの空力専門家はJS37とJS35の改良にそれぞれ専念していたとのことです。

シーズン終了後のテストでは、ルノー製V10エンジンを搭載したJS35Rが製作されました。このマシンには新型トランスミッションも搭載され、JS37の開発データ収集に役立てられました。JS35は、開発の遅れや戦闘力の不足など、多くの問題を抱えながらも、次期マシンの開発に貴重なデータを提供したと言えるでしょう。しかし、そのシーズン結果は、リジェチームにとって大きな痛手となったことは間違いありません。

まとめ

リジェJS35は、開発の遅れ、空力性能の不足、そして信頼性の低さといった様々な問題を抱え、期待を大きく下回る結果に終わったマシンでした。「マッコウクジラ」の異名からも分かるように、その独特のフォルムは、決して成功したデザインとは言えませんでした。しかし、この失敗から得られた教訓は、翌年以降のリジェの開発に活かされ、チームの更なる発展に繋がったと考えられます。JS35は、成功を収めることの難しさと、失敗から学ぶことの大切さを教えてくれる、F1史における一つの象徴的な存在と言えるでしょう。

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