リチャード・マンスフィールド

リチャード・マンスフィールド：稀代の俳優と興行主の生涯

リチャード・マンスフィールド (1857年5月24日 - 1907年8月30日) は、輝かしいキャリアを築いた英国出身の俳優にして興行主でした。シェイクスピア劇から現代劇まで幅広く舞台に立ち、その卓越した演技力と洗練された演出で、観客を魅了し続けました。彼の名は、演劇史に燦然と輝く一星として記憶されています。

複雑な出自と芸術への道

ドイツのベルリンに生まれ、幼少期をイギリス領だったヘルゴラント島で過ごしたマンスフィールド。ロンドンのワイン商人を父に、ウクライナ出身のソプラノ歌手である母を持ち、芸術的な環境に囲まれて育ちました。ダービー・スクール卒業後、ロンドンで絵画を学んだ彼は、母の演奏活動に伴いアメリカに渡りますが、20歳で英国に戻り、客間の芸人として活動を始めます。そこで培った表現力は、彼を画家から俳優へと導き、新たな人生の幕開けを告げました。

華麗なる舞台キャリアの幕開け

ロンドンでの初舞台から、マンスフィールドの活躍はめざましいものとなります。リチャード・ドイリー・カートのコメディ・オペラ劇団に参加し、『軍艦ピナフォア』や『ペンザンスの海賊』、『魔法使い』など、ギルバート・アンド・サリヴァン作品でコミカルな役から主役まで幅広く演じ、高い評価を得ました。1881年にはドイリー・カートを離れ、ロンドン、そしてアメリカ・ブロードウェイへと舞台を広げ、ジャック・オッフェンバックの作品や、古典作品のリバイバル公演などに出演。その多才ぶりは観客を惹きつけました。

特に1887年の『ジキル博士とハイド氏』の舞台化においては、彼が自ら主演を務め、その見事な演技で大きな成功を収めます。紳士と狂気の殺人鬼という、劇的な役柄を見事に演じ分け、作品を大ヒットに導きました。この舞台はロンドンでも上演され、高く評価されました。

アクター・プロデューサーとしての活躍

俳優として成功を収めたマンスフィールドは、1886年から興行主としての活動も開始します。シェイクスピア劇の上演から、ジョージ・バーナード・ショーの戯曲のアメリカ初演など、彼の活動は多岐に渡りました。特にショーの作品『悪魔の弟子』の上演は、初めて黒字を達成し、彼のプロデューサーとしての才能を見せつけました。豪華な演出で知られたマンスフィールドは、自ら主演を務め、演出、時には脚本まで手掛けるなど、作品作りに全力を注ぎました。

1890年代以降も、ナポレオン・ボナパルト役や、『シラノ・ド・ベルジュラック』、『ヘンリー五世』など、数々の名作に出演。晩年まで精力的に活動を続け、1907年、肝癌により50歳でこの世を去るまで、舞台の上で輝き続けました。最後の舞台は、イプセンの『ペール・ギュント』のアメリカ初演でした。

切り裂きジャックとの関連性

興味深いことに、マンスフィールドは切り裂きジャック事件とも関連付けられたことがあります。ロンドンで『ジキル博士とハイド氏』に出演中、事件が発生。観客の一人から、マンスフィールドが犯人ではないかと警察に訴えられたのです。この批判をかわすために、マンスフィールドは更生施設での公演を検討したという逸話も残されています。

私生活と家族

マンスフィールドは、1892年に一座の看板女優だったベアトリス・キャメロンと結婚。2人の間には、後に俳優となった息子ジョージ・ギブス・マンスフィールド（後にリチャードと改名）が誕生しました。しかし、息子は第一次世界大戦中に病死するという悲劇に見舞われます。

結論

リチャード・マンスフィールドは、稀代の俳優であり、優れた興行主でした。シェイクスピア劇から現代劇まで、多様な作品でその才能を遺憾なく発揮し、演劇界に大きな足跡を残しました。彼の名は、今日でも演劇史に輝き続けています。その生涯は、情熱と才能に満ちた、まさにドラマチックなものでした。

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