ペンザンスの海賊

ペンザンスの海賊：海賊と恋と少将の愉快な物語

アーサー・サリヴァン作曲、ウィリアム・S・ギルバート作詞による2幕のコミックオペラ、『ペンザンスの海賊（原題: The Pirates of Penzance; or, The Slave of Duty）』は、1879年12月31日、ニューヨークで初演されました。観客と批評家の双方から絶賛され、3ヶ月以上にわたるロングラン公演の後、1880年にはロンドンでも上演され、363回もの公演数を記録しました。

物語の中心は、21歳になったフレデリックです。彼は、心優しくもちょっと間抜けな海賊たちのもとで徒弟奉公をしていましたが、その奉公の期間が、なんと「23回目の誕生日」までとされていることが判明します。フレデリックの誕生日は2月29日、つまり閏年生まれ。そのため、彼はあと63年間も海賊として働くはめになるのです。

そんなフレデリックは、スタンリー少将の娘メイベルと出会い、恋に落ちます。しかし、彼を待つ長い年月を前に、2人の愛の行方はどうなるのでしょうか？

この作品は、ギルバート・アンド・サリヴァンの5作目の共作であり、作品中に登場する「少将の歌」は、その軽妙洒脱な歌詞と早口のメロディーで広く知られるようになりました。

制作と著作権：アメリカ初演の狙い

『ペンザンスの海賊』は、ギルバート・アンド・サリヴァン作品の中で唯一、アメリカで公式初演が行われた作品です。これは、当時のアメリカでは海外作品に対する著作権保護が不十分だったためです。

前作『軍艦ピナフォア』がロンドンで大成功したものの、無許可で上演するアメリカの劇団が続出。著作権侵害を防ぐため、ギルバートとサリヴァンはアメリカでの初演を優先し、収益を確保しようとしました。

しかしながら、アメリカでの著作権管理は容易ではありませんでした。ギルバート、サリヴァン、プロデューサーのリチャード・ドイリー・カートは、その後も長年、アメリカでの上演権の管理に苦労したのです。

海賊を題材とした作品は、19世紀には数多く存在しました。ギルバートとサリヴァンも、過去の海賊に関する作品や、サリヴァン自身の作品『The Contrabandista』（1867年）などからヒントを得て、『ペンザンスの海賊』を創作したと考えられています。

着想と創作：既存要素の再利用と新たなアイデア

『軍艦ピナフォア』の上演中から、ギルバートはサリヴァンと共に次の作品に着手したいと考えていました。1878年12月には台本に着手し、過去の作品『Our Island Home』（1870年）の一部を再利用しながら、新しい要素も加えています。

バーナード・ショーは、ギルバートがジャック・オッフェンバックの『盗賊』の影響を受けていたと考えていました。また、ギルバートとサリヴァンは、以前から強盗と警察、そして娘を持つ父親を登場させるアイデアを温めており、それを第2幕に取り入れました。

1879年には、ギルバート、サリヴァン、カートはアメリカでの上演計画を立て、ニューヨークで公演を行うことになりました。彼らは、アメリカでの公演を通して収益を得ることを目指し、同時に、著作権を侵害されないよう、アメリカでの初演を優先したのです。

アメリカ初演とその後：成功と様々な反応

『ペンザンスの海賊』は、1879年12月31日にニューヨークで初演され、大成功を収めました。その後、アメリカ各地を巡業し、1880年にはロンドンでも上演されました。

批評家の評価も高く、『ヘラルド』や『トリビューン』といった新聞は、この作品が『軍艦ピナフォア』を上回る傑作だと評価しました。しかし、一部からは、先行作品からの影響が指摘されたり、音楽が前作ほどではないとの声も上がりました。

スタンリー少将のキャラクターは、有名な将軍サー・ガーネット・ウルズリーをモデルにしているという説もありますが、ギルバートの妻のおじをモデルにしていたという説もあります。

作品内容：あらすじと楽曲

このオペラは、フレデリックの徒弟奉公の終了、メイベルとの出会い、少将との騒動、そしてフレデリックの誕生日の秘密などが絡み合い、ユーモラスな展開を見せます。

作品には数々の名曲が含まれており、「少将の歌」はその中でも特に有名です。その他にも、様々な場面を彩る魅力的な楽曲が、物語を盛り上げます。

パロディと音楽的特徴：サリヴァンの技法

『ペンザンスの海賊』には、他の作曲家の作品をパロディ化した部分も含まれており、特にヴェルディへのオマージュがいくつか見られます。

また、サリヴァン独特の対位法やパターソングなども作品の特徴です。「少将の歌」は、その早口と巧みな言葉遊びが、多くの批評家や観客を魅了しました。

上演史：多様な演出とアレンジ

『ペンザンスの海賊』は、初演以来、世界中で繰り返し上演されており、ドイリー・カート・オペラ・カンパニーによる公演は特に有名です。1981年のジョゼフ・パップによるブロードウェイ公演は、787回も上演され、トニー賞を受賞するなど、大きな成功を収めました。この公演は、従来の演出とは異なる、よりダイナミックでミュージカル風な演出が特徴でした。

他にも、様々な国や劇団による上演、映画化、そしてイディッシュ語版なども存在します。

後世への影響：様々なメディアへの波及

「少将の歌」を始めとする楽曲は、映画、テレビ番組、広告など、様々なメディアでパロディや引用がなされ、現在でも広く親しまれています。

『ペンザンスの海賊』は、その軽妙なユーモア、魅力的な音楽、そして時代を超えた普遍的なテーマが織りなす、名作コミックオペラとして、これからも人々を魅了し続けることでしょう。

もう一度検索