リチャード3世の発掘と再埋葬

イングランド王リチャード3世の発掘と再埋葬：500年越しの帰還

1485年、ボズワースの戦いで戦死したリチャード3世。その遺体はレスターのグレイフライアーズ修道院跡地に粗末に埋葬され、その後、修道院の破壊により墓は失われたと考えられていました。長らくその行方は謎に包まれていましたが、2012年、レスターの駐車場の発掘調査で、奇跡的にリチャード3世と確認される遺骨が発見されました。この発見は、歴史と科学の融合によって実現した、21世紀における歴史的大事件と言えます。

王の最期と最初の埋葬

薔薇戦争の終焉を告げたボズワースの戦い。リチャード3世はそこで命を落とした最後のイングランド王となりました。戦死後、遺体はレスターへ運ばれ、公衆の面前で晒された後、フランシスコ会修道院に簡素な埋葬がなされました。ヘンリー7世の命により、10年後には大理石とアラバスター製の記念碑が建てられましたが、修道院の解散（1538年）に伴い、墓は破壊され、その存在は次第に忘れ去られていきました。

埋葬場所の謎と複数の説

その後、リチャード3世の墓の場所については、複数の説が浮上しました。一説には、ソアー川にかかるバウ橋付近に遺体が投げ捨てられたというものです。しかし、この説は、歴史家のジョン・スピードによる記述に基づいており、その信憑性は疑問視されていました。別の説では、石棺に納められた遺体が、宿屋の馬の水飲み場として使われていたという話もありました。これらの説は、後の研究で否定されることになります。

「リチャードを探して」プロジェクト

リチャード3世の遺体発見は、長年その名誉回復に尽力してきたリチャード3世協会のメンバーにとって悲願でした。協会は、レスターシャー・カウンティ・カウンシルの駐車場の下に遺骨が眠っている可能性を指摘する声もあげていましたが、具体的な発掘調査には着手できずにいました。転機が訪れたのは2009年。フィリッパ・ラングリー、アネット・カーソン、ジョン・アッシュダウン＝ヒルらの熱意と、レスター大学考古学サービスの協力を得て、「リチャードを探して」プロジェクトが発足しました。

グレイフライアーズでの発掘調査

2012年8月、本格的な発掘調査が開始されました。地中レーダー探査の結果は非決定的なものでしたが、調査チームは、グレイフライアーズ修道院跡地の一部を慎重に発掘しました。そして9月、30代男性の遺骨が発見されました。この遺骨には、激しい外傷と脊椎側彎症の痕跡が見られました。

科学的分析と身元確認

発見された遺骨の分析は、レスター大学を中心に、世界中の専門家チームによって行われました。特に注目を集めたのは、ミトコンドリアDNA解析です。リチャード3世の姉アン・オブ・ヨークの母系子孫と比較した結果、高い一致率を示しました。さらに、遺骨の骨学的特徴、放射性炭素年代測定、そして歴史的記録との照合など、多角的な分析の結果、2013年2月、遺骨がリチャード3世のものであると正式に発表されました。

再埋葬を巡る議論と法廷闘争

再埋葬場所は、当初レスター大聖堂に決定されました。しかし、リチャード3世の血縁者を名乗るプランタジネット同盟が、ヨーク・ミンスターへの埋葬を求めて法廷闘争を起こしました。この訴訟は、約1年間にわたって続きましたが、最終的にレスター大聖堂での再埋葬が認められました。

再埋葬とその後

2015年3月26日、レスター大聖堂で盛大な再埋葬式が執り行われました。式典には、カンタベリー大主教や王室関係者も参列しました。再埋葬を記念して、リチャード3世ビジターセンターも建設され、多くの人々がこの歴史的事件を後世に語り継いでいます。リチャード3世の発掘と再埋葬は、歴史、科学、そして社会が一体となった、現代における大きな出来事でした。この発見は、過去の謎を解き明かす科学技術の進歩と、歴史への関心の高まりを示す象徴的な出来事であり、今後の歴史研究にも大きな影響を与えると考えられます。また、この事件は、地元レスターの活性化にも貢献し、観光客誘致など経済的な効果も生み出しました。

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