リッチャヴィ朝

リッチャヴィ朝：古代ネパールの黎明

リッチャヴィ朝は、4世紀から9世紀にかけて現在のネパールに存在した王朝であり、その存在が確認されている中で最古の王朝です。インド・アーリア系の民族によって築かれ、ネパールの歴史において重要な位置を占めています。

起源と建国

ネパールの古代史については、いくつかの王朝王統譜が伝えられていますが、その信憑性は低いとされています。しかし、リッチャヴィ朝については、同時代のサンスクリット語で書かれた碑文が多数残されており、その存在は確実です。建国年代は不明ですが、4世紀中期頃と推定されています。

最初の王とされるヴリシャ・デーヴァは、グプタ朝に租税を納める弱小国の王であったと考えられています。一説には、グプタ朝の時代に北インドに存在したリッチャヴィの小王国が、カトマンズ盆地に侵入して建国したとも言われています。

マーナ・デーヴァ1世の時代

ヴリシャ・デーヴァの子孫であるマーナ・デーヴァ1世は、東征・西征に成功し、41年にわたり君臨しました。彼は豪華な宮殿を建設し、硬貨を発行し、商業を奨励し、宗教に寛容な政策を採りました。この頃からグプタ朝への朝貢記録はなくなり、独立国としての地位を確立したと考えられています。

グプタ家の台頭と衰退

しかし、リッチャヴィ王家の専制支配は長くは続きませんでした。ヴァサンタ・デーヴァ王の時代から、家臣であるグプタ家が実権を握るようになります。特に、ヴァイローチャナ・グプタは「布告人」として権力を拡大し、国王の権力を弱めていきました。

532年には、ラヴィ・グプタが王との二頭政治を宣言しますが、翌年には殺害されたと推測されています。その後、大豪族クラマリーラが実権を握り、557年頃にはバウマ・グプタが王の連立統治者となり、王に匹敵する尊号を名乗るほどになりました。しかし、シヴァ・デーヴァ1世の時代に、アンシュ・ヴァルマーによって倒されます。

アンシュ・ヴァルマーの改革

アンシュ・ヴァルマーは、リッチャヴィ朝の黄金時代を築いた人物です。彼は林塞を整備して国土防衛に努め、地域互助組織を保護し、カースト制度を監視する行政府を設けました。また、最高裁判所にあたる「内坐所」を設置し、地方行政機関である「パンチャーリー制度」を積極的に活用しました。さらに、農業用水路を整備し、商業を振興し、輸出を奨励するなど、経済発展にも力を入れました。

王政復古とナレーンドラ・デーヴァ王

アンシュ・ヴァルマーの死後、リッチャヴィ王統は一時的に復活しますが、再びグプタ家の勢力が強まります。ウダヤ・デーヴァ王は、弟とジシュヌ・グプタによって殺害され、ナレーンドラ・デーヴァはチベットへ追放されます。

その後、ナレーンドラ・デーヴァはチベットのソンツェン・ガンポ王の助けを得てネパールに帰還し、グプタ家を倒して王位に就きます。彼は36年間君臨し、軍事力を充実させ、内政面でも「内坐所」の権限を拡大し、地方自治権を拡大しました。また、経済的にも繁栄し、集落が都市化し、交易が盛んになりました。

衰退と滅亡

ナレーンドラ・デーヴァ王の死後、リッチャヴィ朝は衰退に向かいます。シヴァ・デーヴァ2世の時代には、チベットの従属国化が進み、703年にはチベットに反乱を起こすも失敗に終わります。その後、王権は衰退し、879年にデーヴァ朝のラーガヴァ・デーヴァが即位し、リッチャヴィ朝は滅亡しました。

リッチャヴィ朝は、古代ネパールの歴史において重要な足跡を残しました。その時代の碑文は、当時の社会や文化を知る上で貴重な資料となっています。

もう一度検索