リディック・ボウ

リディック・ボウ（Riddick Lamont "Big Daddy" Bowe）は、1967年 8月10日にアメリカ合衆国ニューヨーク市ブルックリンで生まれたプロボクサーです。ヘビー級でWBA、WBC、IBFの世界王座を統一し、さらにWBO世界ヘビー級タイトルも獲得しました。また、プロ転向前には1988年のソウルオリンピックにおいて、ボクシング競技のスーパーヘビー級で銀メダルを獲得しています。

アマチュアからプロへ

13人兄弟の12番目として育ち、後の世界王者マイク・タイソンと同じ小学校に通うという経歴を持ちます。アマチュアボクシングでは104勝18敗の戦績を残し、その集大成としてソウルオリンピックに出場。スーパーヘビー級決勝まで駒を進めましたが、レノックス・ルイスに敗れ、銀メダルに終わりました。このオリンピック決勝での敗北は、その後のプロキャリアにおけるルイスとの対戦を巡る因縁の始まりとなります。

1989年3月6日、名伯楽エディ・ファッチをトレーナーに迎え、プロとしての第一歩を踏み出しました。デビュー戦を2ラウンドTKOで飾るなど、順調にキャリアを重ねていきます。

世界統一王者への道

プロデビューからわずか3年余り、32戦無敗の快進撃を続けたボウは、1992年 11月13日、WBA・WBC・IBFの統一世界ヘビー級王者であったイベンダー・ホリフィールドに挑戦。激しい戦いの末、12ラウンド判定で勝利し、無敗のまま主要3団体の世界王者に輝きました。しかし、WBCから義務付けられたソウル五輪決勝の相手であるレノックス・ルイスとの対戦を拒否。記者会見でWBCのチャンピオンベルトをゴミ箱に捨てるという衝撃的なパフォーマンスを披露し、WBCは1992年12月14日付でボウから王座を剥奪、ルイスを新王者に認定しました。

WBC以外のWBA・IBF王座は保持し、2度の防衛に成功しましたが、1993年 11月6日、3度目の防衛戦で再びイベンダー・ホリフィールドと対戦し、12ラウンド判定で敗れ、王座から陥落。ホリフィールドに雪辱を許す形となりました。

WBO王座とゴロタ戦の混乱

王座陥落から約1年4ヵ月後の1995年 3月10日、ボウは世界再挑戦としてWBO世界ヘビー級王者ハービー・ハイドと対戦。6ラウンドKOで勝利し、世界王座への返り咲きを果たしました。このWBO王座は一度防衛した後、返上しています。

ボウのキャリアにおいて特筆すべきは、アンドリュー・ゴロタとの2度の対戦です。1996年7月11日の初戦では、ゴロタが再三にわたるローブロー（急所への反則打）を繰り返し、レフェリーは2度減点。しかしゴロタの反則は止まらず、7ラウンドに再びローブローでボウが倒れると、ゴロタは失格負けとなりました。試合中のジャッジ採点ではゴロタがリードしていた上、試合後には両陣営や観客を巻き込んだ大規模な乱闘騒ぎが発生。この混乱と不甲斐ない試合内容は、当時交渉が進んでいたレノックス・ルイスとの対戦を白紙に戻す結果を招き、さらに真剣な練習態度を見せないボウに激怒したトレーナーのエディ・ファッチも辞任しました。

同年12月14日のダイレクトリマッチでも、ゴロタはボウからダウンを奪うなど優勢に進めながら、再び頭突きやローブローといった反則を繰り返し、9ラウンドにローブローでボウが倒れたため失格負けとなりました。この試合もジャッジ採点ではゴロタがリードしており、ボウは実力で優位に立てない状況でした。

リングを離れての波乱

ゴロタとの2度目の対戦後、29歳という若さでボクシングからの引退を発表。アメリカ海兵隊予備役への入隊を決意しましたが、新兵訓練キャンプでの厳しい体力訓練に耐えられず、わずか10日で除隊となりました。

引退後のボウは私生活で度重なるトラブルを起こします。家族への暴力事件が頻発し、姉妹への暴行で訴えられた他、妻ジョディを気絶させるほどの暴行で逮捕。その後、家族関係を修復しようと試みるも失敗し、1997年8月には子供たちの誘拐事件を起こし、逮捕されました。誘拐事件では、弁護側がパンチドランカーの影響を主張し、一時減刑されるも、最終的には判決が覆り、17ヶ月間服役しました。また、2001年には自宅で妻への暴行容疑で逮捕され、家庭裁判所の命令で家族との接触を禁じられています。これらのトラブルに加え、2005年には破産を宣言するなど、リング外での苦難が続きました。

複数回の復帰と挑戦

私生活の混乱を経ながらも、ボウは複数回にわたりリングへの復帰を果たします。最初の復帰は2004年、約8年ぶりの試合でTKO勝利。2005年には判定勝利を収めるも、この試合後に再び引退状態に。その後、2008年に3年8ヶ月ぶりの復帰戦を行い、判定勝利を収めました。

ボクシング以外にも、2013年にはタイでムエタイの試合に挑戦しましたが、ローキックを受けTKO負けを喫しました。同年にはイギリスのプロレス団体でプロレスデビューが発表されましたが、契約トラブルにより実現しませんでした。さらに、2021年にはセレブリティボクシングでの復帰戦が発表され、元NBA選手のラマー・オドムとの対戦が計画されましたが、安全面の懸念から試合は中止となりました。

輝かしい世界王座統一の功績を残す一方で、度重なるリング内外でのトラブルと、引退と復帰を繰り返したリディック・ボウのキャリアは、栄光と混乱が入り混じった波乱万丈なものと言えます。

もう一度検索