リヒャルト・フォン・グライフェンクラウ

リヒャルト・フォン・グライフェンクラウ：激動の時代を駆け抜けたトリーア選帝侯

リヒャルト・フォン・グライフェンクラウ（1467年 - 1531年）は、16世紀初頭の神聖ローマ帝国において、トリーア大司教兼選帝侯という重要な地位にありました。彼の生涯は、宗教改革の幕開け、皇帝選挙、騎士戦争、農民戦争といった激動の時代と深く関わっています。

生涯

青年時代と聖職への道

ラインガウ地方出身のリヒャルトは、幼い頃から聖職者の道を目指し、1478年にトリーア大聖堂の司教座聖堂参事会に加わります。数年間の空白期間には、パリで神学を修めたと考えられています。1487年からはマインツ大聖堂の聖堂参事会にも名を連ね、その才能を開花させていきました。1492年には、聖堂参事会と執政官との間のトラブル解決のためにローマへ派遣され、その際に彼の才知が認められるようになります。

トリーア大司教への就任

1511年、トリーア大司教ヤコブ2世の死後、リヒャルトは後継者として指名され、満場一致で大司教に選出されます。しかし、当時のイタリア戦争の影響で教皇の承認を得るまでに約1年を要しました。1512年には、神聖ローマ帝国議会がトリーアで開催され、リヒャルトの大司教就任式と重なり、街は大いに賑わいました。皇帝マクシミリアン1世も臨席のためにトリーアに滞在し、大聖堂に保管されていた秘宝「キリストの聖衣」の一般公開を求めました。この公開により、トリーアにはさらなる観光客が押し寄せましたが、疫病の発生を懸念する声が上がり、帝国議会は急遽ケルンへ移される事態となりました。リヒャルトの就任式は聖霊降臨日の祝日に行われ、マインツ大司教から大司教位が授けられました。しかし、皇帝の承認が遅れ、選帝侯位の承認は8月12日となります。

皇帝選挙での暗躍

1519年の皇帝選挙において、リヒャルトはフランス王フランソワ1世を支持しました。フランスと神聖ローマ帝国の融和、そしてヨーロッパの団結を願ってのことでした。しかし、選挙戦はハプスブルク家のカルロス1世（後のカール5世）がフッガー家からの資金援助を受け、選帝侯たちを買収して勝利します。リヒャルトもその際、カール5世から多額の金銭を受け取っています。1520年、アーヘン大聖堂で行われたカール5世の戴冠式では、リヒャルトはトリーア大司教として油を注ぐ儀式を行いました。

宗教改革とルターとの関わり

リヒャルトの大司教在任期間は、マルティン・ルターによる宗教改革が始まった時期と重なります。1521年のヴォルムス帝国議会では、リヒャルトはルターに対する審問委員長を務め、自説の撤回を迫りましたが、ルターは拒否しました。その後、リヒャルトは個人的にルターを説得しようと試みましたが、失敗に終わります。しかし、ルターの身の安全を皇帝に確約させ、無事に帰還させることに尽力しました。

騎士戦争と農民戦争

1522年、近隣の騎士ジッキンゲンがトリーア大司教領に侵攻する騎士戦争が発生。リヒャルトは徹底抗戦を指示し、近隣諸侯に救援を求めました。ヘッセン方伯やプファルツ選帝侯らの援軍を得て、ジッキンゲンを撃退します。その後、農民戦争が勃発すると、リヒャルトはプファルツ選帝侯やマインツ大司教からの要請に応じ、自ら軍を率いて農民軍の鎮圧に乗り出しました。

晩年

農民戦争後、ドイツ諸侯は福音派（ルター派）と皇帝派（カトリック）に分裂。リヒャルトは皇帝派の代表格とみなされるようになります。1529年の第2回シュパイアー帝国議会では、カトリック勢が多数派を占め、ヴォルムス勅令の復活を試みました。リヒャルトはこの時のカトリック派の筆頭格でした。1531年3月13日、リヒャルトはヴィットリヒで死去し、トリーア大聖堂に埋葬されました。

事績

リヒャルトはトリーア大司教として、聖遺物の一般公開を恒例化しました。これは現代でも続けられています。

リヒャルト・フォン・グライフェンクラウは、激動の時代において、政治と宗教の狭間で難しい舵取りを迫られた人物でした。彼の生涯は、当時の神聖ローマ帝国の複雑な状況を映し出す鏡と言えるでしょう。

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