リリス (占星術)

西洋占星術におけるリリス

西洋占星術の世界において「リリス」（Lilith）という名称は、単一の対象ではなく、主に三つの異なる概念を指し示すために用いられています。これらの概念の中には実際に観測される天体もあれば、占星術上の計算によって求められる点、あるいは歴史的に提唱されたものの現在では実在しないとされる仮説上の天体も含まれており、それぞれがホロスコープの解釈において独自の意味合いを持つとされています。

三つの主要なリリス

1. 小惑星のリリス

一つ目は、実際に太陽系の小惑星帯に存在する小惑星です。この天体は「リリト」とも表記されることがあり、その名称はフランスの著名な作曲家であるリリ・ブーランジェに由来しています。数ある小惑星の一つとして、このリリスもまた占星術的な象徴として解釈されることがあります。他の二つの「リリス」が計算上の点や架空の存在であるのに対し、この小惑星は物理的に観測可能な実在の天体であるという点で明確に区別されます。

2. 月の遠地点のリリス（ブラックムーン・リリス）

二つ目は、月の公転軌道において地球から最も遠ざかる点、すなわち月の遠地点を指します。この計算上のポイントは「ブラックムーン・リリス」とも呼ばれ、その名称は古代の伝承に登場する女性の悪魔「リリス」に由来すると考えられています。この概念は、個人のホロスコープにおいて、抑圧された部分、タブー、あるいは潜在的な力を象徴すると解釈されることがあります。特に日本の占星術家、例えば松村潔氏、神戸の橋本航征氏、霜月マイア氏などがこのブラックムーン・リリスの概念を用いています。表記には複数の記号が存在し、統一されていませんが、特に日本の占星術関連書籍などでは、ギリシャ文字のφ（ファイ）に似た形状の記号が用いられる例が多く見られます。

3. 架空の地球の衛星のリリス（ダークムーン・リリス）

三つ目は、「ダークムーン・リリス」とも呼ばれる、かつて地球の第二の衛星として存在が提唱されたものの、現在では実在しないと考えられている架空の天体です。この概念は近世に論じられましたが、科学的には確認されていません。しかし、占星術の分野においては、1918年にセファリエル（Sepharial）という名の占星術家によって取り入れられて以来、現在に至るまでホロスコープの解釈要素として用いられています。このダークムーン・リリスもまた、特定の心理的な側面や隠された性質を示すシンボルとして扱われることがあります。日本でも、秋月さやら氏らがこの概念を用いた占星術的分析を行っています。

東洋占術との関連性

興味深いことに、東洋占術においても「月の遠地点」に相当する概念に言及した歴史的な文献が存在します。例えば、空海の弟子である宗叡が承和12年（865年）に請来したとされる経典『七曜攘災決（七曜禳災決）』は、宿曜経の原典の一つとされていますが、この中で「計都星」が月の遠地点という意味で用いられていることが、京都産業大学の矢野道雄氏の研究によって発見されました。これは、東洋占術において通常「計都」が黄道と白道の交点の一つ（インド占星術のケートゥや、西洋占星術のドラゴン・テール、すなわちサウス・ノードに相当）を指すのとは異なる用例であり、月の遠地点に対する東洋における古来からの関心を示す一例と言えるでしょう。

まとめ

このように、西洋占星術における「リリス」という呼称は、実在する小惑星から、計算上の重要な点、そして歴史上の仮説天体にまで及びます。それぞれの「リリス」がホロスコープ上でどのように解釈されるかは、占星術家によって異なる場合もありますが、個人の内面や潜在的なテーマを探る上で、これらの概念は重要な手掛かりを提供する可能性があります。これらの多様な「リリス」の存在は、占星術という分野が持つ、天体物理学的な知識と象徴的な解釈が融合する複雑で多層的な性質をよく示しています。

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