リングシュトラーセ

リングシュトラーセ：ウィーンの変貌を象徴する環状道路

リングシュトラーセ、またはリング通りは、オーストリアの首都ウィーンの中心部を環状に走る道路です。1857年、かつて都市を囲んでいた市壁とその堀の跡地に建設されました。この道路は単なる交通路ではなく、ウィーンの都市改造とオーストリア帝国の変遷を象徴する存在です。

市壁撤去と近代化の波

19世紀、中世から続く市壁による都市防衛の時代は終わりを迎えました。パリでは、ジョルジュ・オスマンによる大規模な都市改造が進められ、近代都市へと変貌を遂げていました。ウィーンもまた、市壁を撤去し、近代的な都市へと生まれ変わる必要に迫られていました。市壁は、工業化による人口集中に対応する上で障害となり、鉄道網の整備を妨げていたのです。さらに、市壁は1848年の革命ではバリケードとして利用され、鎮圧を困難にするなど、その存在は弊害となっていました。

国家主導の都市改造

1858年、長年ウィーンを防御してきた市壁の取り壊しが始まりました。国家主導で都市計画の公募が行われ、ウィーン市の影響力は排除されました。リングシュトラーセ建設と都市改造は、国家権力が市民の自治を解体していく象徴でもありました。当時のウィーン市長は、この国家主導の計画に不満を表明しています。また、リングシュトラーセは、有事の際には軍隊が展開するための軍用道路としての側面も持ち合わせていました。

帝国の威信と多文化共生

1859年のイタリア統一戦争、1866年の普墺戦争での敗北は、オーストリア帝国の威信を大きく揺るがしました。帝国は、民族主義の高まりに対抗するため、コスモポリタン的な近代都市ウィーンを築き、帝国の存在意義を示す必要がありました。リングシュトラーセ沿いには、ウィーン宮廷歌劇場（現国立歌劇場）、ウィーン市庁舎、国会議事堂、証券取引所、ウィーン大学、美術館、自然史博物館など、多くの公共建築物や富裕層の邸宅が建設されました。1873年には、新しくなったウィーンで万国博覧会が開催され、岩倉使節団もこの博覧会を見学しています。

歴史主義建築の集大成

リングシュトラーセ沿いの建築物は、ヘレニズム様式（国会議事堂）、ゴシック様式（市庁舎）、ネオバロック様式（陸軍省）、ユーゲント様式（郵便貯金局）など、様々な歴史的様式が混在しています。当時は、その折衷的なスタイルが批判されることもありましたが、20世紀末以降、ポストモダニズムの台頭とともに、多様性と折衷性を持つ建築群は再評価されています。

リングシュトラーセは、ウィーンの歴史、文化、そして変遷を物語る重要な場所です。その沿線を歩けば、オーストリア帝国の栄光と、近代都市への変貌を肌で感じることができるでしょう。

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