歴史主義建築

歴史主義建築：過去の様式を継承した建築運動

19世紀後半から20世紀初頭にかけて西洋で流行した歴史主義建築は、古代ギリシャ・ローマ[[建築]]や中世ゴシック[[建築]]、ルネサンス[[建築]]など、過去の建築様式を積極的に取り入れた建築様式です。新古典主義建築の後、モダニズム[[建築]]の勃興するまでの間、建築界の中心的な存在として隆盛を極めました。

歴史主義建築と折衷主義建築の違い

歴史主義建築とよく混同されるのが折衷主義建築ですが、両者には明確な違いがあります。歴史主義建築は、特定の過去の様式を忠実に再現、もしくはそれに基づいて設計されるのに対し、折衷主義建築は複数の様式を自由に組み合わせ、建築家の意図に基づいて創造的なデザインを追求します。例えば、ゴシック様式を基調としたゴシック・リヴァイヴァル[[建築]]は歴史主義建築に分類されますが、複数の様式を融合しているわけではないため、折衷主義建築とは言えません。

歴史的背景

18世紀に流行した新古典主義建築では、古代ギリシャ・ローマ[[建築]]が理想とされましたが、19世紀に入ると、中世のゴシック[[建築]]や近世のルネサンス[[建築]]が見直され、過去の建築様式を復活させようとする機運が高まりました。このリヴァイヴァル運動は、歴史主義建築の隆盛を促す大きな要因となりました。教会建築にはゴシック様式、公共建築にはルネサンス様式といったように、建築物の用途に合わせて様式を使い分けることも一般的でした。この傾向は20世紀初頭まで続き、近代建築運動の台頭と共に次第に衰退していきました。

歴史主義建築という用語は、イギリスの建築史家ニコラス・ペブスナーによって用いられ、モダニズム[[建築]]の視点から見た19世紀建築に対するやや否定的な意味合いを持っていました。モダニズム全盛期には、過去の様式に固執し、前向きな理念や革新性に欠ける、混沌とした建築様式とみなされました。しかし、モダニズム[[建築]]が広く普及した現代においては、歴史主義建築は希少価値を持つものとなり、都市景観を形成する上で重要な役割を担っています。

代表的な歴史主義建築

歴史主義建築は、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ合衆国など、世界各地で数多くの優れた建築物を生み出しました。以下に、いくつかの代表的な作品を紹介します。

イギリス

ストローベリ・ヒル（ホレス・ウォルポール）：ゴシック・リヴァイヴァルの先駆けとなった中世趣味の作品
ロイヤル・パビリオン（ジョン・ナッシュ）：イスラム様式の影響を受けた独特の建築
国会議事堂（バリー、ピュージン）：ゴシック・リヴァイヴァルの代表作
スコットランドヤード（リチャード・ノーマン・ショウ）：クイーン・アン様式
ピカデリーホテル（リチャード・ノーマン・ショウ）：エドワーディアン・バロック様式
インド総督府（エドウィン・ラッチェンス）：インド建築の装飾を取り入れた壮大な建築

フランス

サント・ジュヌヴィエーブ図書館：ネオ・ルネサンス様式
ルーブル宮殿新館：ネオ・バロック様式
オペラ座（シャルル・ガルニエ）：ネオ・バロック様式

ドイツ

ドレスデン歌劇場（ゼンパー）：
国会議事堂：

アメリカ合衆国

アメリカ合衆国では、歴史の浅い国という意識から、ヨーロッパ以上に古典様式を理想とする傾向が強まりました。建国以来、イギリスのジョージアン様式が好んで用いられ、パリのエコール・デ・ボザールで学んだ建築家によって、古典主義的な歴史主義建築が数多く造られました。マッキム・ミード＆ホワイト事務所はその代表的な例です。

日本

明治時代、日本は近代化を推進する過程で、西洋建築、特に歴史主義建築をモデルとしました。工部大学校で活躍したジョサイア・コンドルや、彼の教え子である辰野金吾は、イギリスの影響を強く受けた歴史主義建築を数多く設計しました。東京駅はその代表的な作品です。他に、ドイツやフランスに留学した建築家も存在しますが、明治時代の建築の主流はイギリス系と言えるでしょう。大正時代になると、ヨーロッパの近代建築運動の影響を受け、歴史主義から離れた多様な建築様式が生まれてきました。昭和時代には、ル・コルビュジエなどのモダニズム[[建築]]への関心の高まりとともに、アメリカン・ボザール様式の影響を受けた大規模な建築物が都市を彩りました。

日本の代表的な歴史主義建築には、以下のものがあります。

東京駅（辰野金吾）
北海道庁旧本庁舎
法務省旧本館
日本銀行（辰野金吾）
岩崎久弥邸（ジョサイア・コンドル）
同志社大学舎群
京都府庁
大阪府立中之島図書館
旧横浜正金銀行本店本館
赤坂離宮
慶應義塾図書館
大阪市中央公会堂
三越百貨店本店
歌舞伎座
三井本館
明治生命館
築地本願寺

これらの建築物は、今日においても日本の歴史と文化を象徴する存在として、人々に親しまれています。歴史主義建築は、単なる過去の模倣ではなく、それぞれの時代の文化や技術、思想が反映された、貴重な建築遺産と言えるでしょう。

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