リヴァー〜ジョニ・ミッチェルへのオマージュ

『リヴァー〜ジョニ・ミッチェルへのオマージュ』（River: The Joni Letters）は、ジャズ界の巨匠ハービー・ハンコックが2007年に発表したスタジオ・アルバムです。これは、彼が敬愛するシンガーソングライター、ジョニ・ミッチェルへのトリビュート作品であり、ヴァーヴ・レコードからリリースされました。

ハンコックにとって、本作は9年ぶりのアコースティック・ジャズ・アルバムとなりました。収録曲の大部分はミッチェルの楽曲のカヴァーですが、デューク・エリントンの「ソリチュード」やウェイン・ショーターがマイルス・デイヴィスに提供した「ネフェルティティ」など、ミッチェルが作曲に関与していない楽曲も含まれているのが特徴です。

特筆すべきは、豪華なゲスト陣の参加です。「ティー・リーフの予言」ではミッチェル本人がボーカルを務め、さらにノラ・ジョーンズ、ティナ・ターナー、コリーヌ・ベイリー・レイ、ルシアーナ・ソウザ、レナード・コーエンといった多彩なアーティストがゲスト・ボーカリストとして参加しています。

ハンコックは本作の方向性について、「彼女（ミッチェル）の歌詞は多くの場合、特定の場所や登場人物の出来事を丹念に描写している。私たちは歌詞の題材を視覚的に表現してみようと考え、映画的なアプローチでサウンドトラックを作るような感じにした」と語っています。

ハンコックとウェイン・ショーターは、かつてミッチェルのアルバム『ミンガス』（1979年）にも参加しており、本作では長年ミッチェルと共同制作を行ってきたラリー・クラインが共同プロデューサーを務めました。

レコーディングは主にアバター・スタジオとオーシャン・ウェイ・スタジオで行われましたが、ティナ・ターナーのボーカルはスイスのチューリッヒ、コリーヌ・ベイリー・レイのボーカルはイングランドのヨークシャーで別録りされました。

アルバムはBillboard 200で5位を記録し、ハンコックにとって初の全米トップ10アルバムとなりました。また、『ビルボード』のコンテンポラリー・ジャズ・アルバム・チャートでは1位を獲得しています。日本のオリコンチャートでも15週にわたってトップ300入りし、最高51位を記録しました。

第50回グラミー賞では、最優秀アルバム賞と最優秀コンテンポラリー・ジャズ・アルバム賞を受賞。「青春の光と影」は最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・ソロ賞にノミネートされました。ジャズ・アルバムがグラミー賞最優秀アルバム賞を受賞するのは、スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトのコラボレーション・アルバム『ゲッツ/ジルベルト|ゲッツ_ジルベルト』以来、43年ぶりの快挙でした。

音楽評論家からの評価も高く、All About Jazzのジョン・ケルマンは5点満点中4.5点を付け、「ジョニ・ミッチェルが現在に至るまで有しているジャズ的な気質を、さらなる優れた解釈で強化してみせた見事なディスク」と評しました。オールミュージックのThom Jurekは5点満点中4点を付け、「ジャズ・ファンにとっては、ハンコックとショーターの素晴らしき新章であり、新たな聴き方が楽しめる。ポップ・ファンやミッチェルのファンにとっては、別世界に突入し素晴らしい経験をする静かなる第一歩となり得る」と評しています。

収録曲は以下の通りです。

1. コート・アンド・スパーク - "Court and Spark"
2. イーディスと親玉 - "Edith and the Kingpin"
3. 青春の光と影 - "Both Sides, Now"
4. リヴァー - "River"
5. スウィート・バード - "Sweet Bird"
6. ティー・リーフの予言 - "Tea Leaf Prophecy"
7. ソリチュード - "Solitude"
8. アメリア - "Amelia"
9. ネフェルティティ - "Nefertiti"
10. ジャングル・ライン - "The Jungle Line"

日本盤にはボーナス・トラックとして「ア・ケイス・オブ・ユー」が収録されています。また、2017年にはエクスパンド・エディション盤がリリースされ、4曲のボーナス・ディスクが追加されました。

『リヴァー〜ジョニ・ミッチェルへのオマージュ』は、ハンコックの創造性とミッチェルへの敬意が融合した、時代を超えて愛される名盤です。

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