リヴィウ音楽院

ミコラ・リセンコ記念リヴィウ国立音楽院

ウクライナ西部、歴史的な都市リヴィウに位置するミコラ・リセンコ記念リヴィウ国立音楽院（Львівська національна музична академія імені Миколи Лисенка）は、ウクライナを代表する高等音楽教育機関です。ウクライナにおいて最も長い歴史を持つ音楽院の一つであり、ヨーロッパでも有数の伝統を誇ります。国の文化遺産に指定されており、国内外で高い評価を得ています。ウクライナ教育科学省の管轄下に置かれ、2007年には国立の音楽アカデミーとなりました。その起源は1853年に遡り、現在の正式名称はミコラ・リセンコ記念リヴィウ国立音楽アカデミーです。

歴史

この音楽院の豊かな歴史は、18世紀末のリヴィウにおける様々な音楽活動団体に深く根差しています。

前史

1796年には、後にフレデリック・ショパンの教師となるポーランドの作曲家ユズーフ・エルスナーがリヴィウに「音楽アカデミー」を設立し、演奏会活動を行いました。これは短期間でしたが、都市の音楽文化に影響を与えました。また、1826年にはヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの息子であるフランツ・クサーヴァー・モーツァルトが聖チェチーリア協会を立ち上げ、教会合唱団や歌唱研究所を運営しました。1830年代には非公式な音楽愛好家協会が活動し、1838年には「ガリツィア音楽協会」として正式な地位を獲得。この協会はガリツィア地域の音楽文化振興を目指し、コンサート開催や教育活動を展開しました。

ガリツィア音楽協会音楽院時代（1853年-1939年）

1848年の動乱による協会の建物焼失を経て、1853年、ガリツィア音楽協会による音楽院設立が正式に認められました。初代監督にはヨハン・ルックガバーが就任し、歌唱やヴァイオリン、チェロなどのクラスが開設されました。1858年から1887年にかけては、ショパンの直弟子であるカロル・ミクリが指導者として協会を牽引し、ピアノや作曲などの教育を充実させました。この時期には生徒数も大幅に増加し、多様な楽器や理論科目が網羅されるようになりました。協会は独自のオーケストラを組織し、定期的な演奏会や室内楽コンサートを開催しました。1906年には現在のリヴィウ州立フィルハーモニーが使用する建物をコンサートホールとして建設しましたが、後の財政難により、このホールは一時的に映画館として賃貸されるなど、運営は市民からの寄付に頼る状況となりました。

ミコラ・リセンコ高等音楽研究所時代（1903年-1939年）

並行して、ウクライナの国民的音楽文化の育成を目指す動きも活発化しました。1891年にはアナトール・ヴァフニャニンがボヤン合唱協会を設立し、ガリツィア東部の各地に支部を広げました。この活動を背景に、1903年10月10日、ミコラ・リセンコ高等音楽研究所が開校しました。この研究所は、ウクライナの著名な作曲家ミコラ・リセンコの名を冠しており（正式な名称付与の記録は不明ながら、早くからこの名で呼ばれた）、ウクライナ語での教育を重視しました。教育課程やクラス（ヴィオラ、アンサンブル、管楽器、合唱など）を拡充し、交響楽団の結成も計画されました。東ガリツィア各地に支部を設け、多くの生徒を受け入れました。

統合と現代（1939年以降）

1939年、ソビエト政権による教育機関の再編に伴い、ガリツィア音楽協会音楽院、カロル・シマノフスキ音楽院、ミコラ・リセンコ高等音楽研究所などが統合され、ミコラ・リセンコ記念リヴィウ州立音楽院として新たなスタートを切りました。1944年にリセンコの名が正式に冠され、その後、高等音楽研究所、州立音楽アカデミーを経て、2007年に現在の国立音楽アカデミーの地位を得るに至りました。

建物

現在の音楽院の主要な校舎は、1907年から1909年にかけて建築家タデイ・オビミンスキの設計により建設された旧技術研究所の建物を活用しています。モダニズム様式で設計されたこの3階建ての煉瓦造りの建物は、街角に沿う非対称の曲線を持つ二つのファサードが特徴的です。外壁は漆喰で覆われ、垂直線が強調されており、基部には粗い石積みが施されています。内部空間は回廊と教室で構成され、講堂には装飾的なピラスターや多色使いの装飾が見られ、階段にはモダニズム様式のステンドグラスが残されています。

構成

リヴィウ国立音楽院は、多岐にわたる音楽分野を網羅する学部と付属施設で構成されています。

主な学部：

ピアノ学部
オーケストラ学部（ヴァイオリン、弦楽器、管楽器、打楽器、民族楽器など）
指揮学部（合唱指揮、オペラ・交響楽指揮）
声楽学部
* 音楽理論・作曲学部（音楽学、作曲）

付属施設として、充実した蔵書を誇る図書館、オペラスタジオ、音楽民族学問題研究所などが設置されています。

著名な関係者

本音楽院は、長い歴史の中で数多くの優れた音楽家や教育者を輩出してきました。

主な歴代学長：
カロル・ミクリ、スタニスラフ・リュドケヴィチ、ヴァシル・バルヴィンシキー、ムィコラ・コレッサ、ゼノン・ダシャク、マリヤ・クルシェルニツカ、イーホル・プィラチュクなどが名を連ねます。

著名な教員：
ヴィレーム・クルツ、スタニスラフ・リュドケヴィチ、ムィコラ・コレッサ、イェウヘン・スタンコヴィチ、ステファニア・トゥルケヴィチ＝ルキヤノヴィチなどが教育に貢献しました。

著名な卒業生：
世界的に知られるソプラノ歌手マルツェラ・ゼンブリヒやソロミヤ・クルシェルニツカ、名ピアニストのモーリツ・ローゼンタールやラウル・コチャルスキ、作曲家のヴァシル・バルヴィンシキー、ポーランドの作曲家ローマン・パレスター、近年ではポップシンガーのルスラナや周深など、多様な分野で活躍する人材を多く送り出しています。

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