リー・ミラー

リー・ミラー（1907-1977）は、20世紀を代表する女性写真家のひとりとして知られています。アメリカ生まれの彼女は、モデルとしてのキャリアを経て、写真家としての道を歩み始めました。その活動は、ポートレート、ファッション写真から、第二次世界大戦における報道写真まで多岐に渡り、戦争の残酷さと悲しみを捉えた作品群は高く評価されています。

ニューヨーク州ポキプシー出身のリー・ミラーは、18歳でパリへ渡り、照明、衣装、舞台美術を学びました。帰国後、エドワード・スタイケンやマン・レイといった巨匠を相手にモデルとして活躍する傍ら、写真技術を磨いていきます。1929年には再びヨーロッパへ渡り、パリで活動拠点を構えました。そこでは、シュルレアリスム運動の中心人物であるマン・レイと出会い、弟子兼愛人として彼の影響を受けながら、独自の芸術性を開花させていきました。モンパルナスに自身のスタジオを開設し、シャネルなどの著名なファッションデザイナーとの仕事もこなすなど、多方面で才能を発揮しました。

マン・レイとの別れ後、彼女はニューヨークに戻り、再びスタジオを設立します。その後、エジプトの実業家と結婚してカイロへ移住するも、後に画家で美術品蒐集家のローランド・ペンローズと出会い、イギリスへと移り住みます。第二次世界大戦勃発後、イギリス版『ヴォーグ』で活躍し、戦争の影が忍び寄る中、ポートレートやファッション写真を撮影していました。

しかし、リー・ミラーの真価は、戦争報道写真家として発揮されることになります。1942年、彼女は従軍記者として、イギリスやドイツの戦場へと赴き、戦禍の惨状を記録しました。収容所の被災者の姿や、戦火に包まれた街の光景など、彼女が撮影した写真は、戦争の現実をありのままに伝える力強いものでした。『ライフ』誌のカメラマン、デヴィッド・E・シャーマンと共に数々の取材を行い、その作品は世界に衝撃を与えました。

戦後、彼女はローランド・ペンローズと結婚し、息子をもうけました。1950年代には『ヴォーグ』誌との仕事から離れましたが、写真家としての活動を続け、美術家たちのポートレートを数多く撮影しています。これらの作品には、彼女自身の幅広い交友関係と芸術への深い造詣が反映されています。

リー・ミラーは、存命中には大規模な展覧会を開催したり、作品集を出版したりすることはありませんでしたが、没後、彼女の作品は再評価され、20世紀を代表する女性写真家としての地位を確立しました。彼女の作品は、単なる記録にとどまらず、時代と社会への鋭い視点を反映しており、現代においても見る者の心を揺さぶる力を持っています。彼女の奔放で情熱的な生き様と、卓越した芸術性は、後世に大きな影響を与え続けています。

主な参考文献：
「リー・ミラー　自分を愛したヴィーナス」（アントニー・ペンローズ、松本淳訳、パルコ出版局）
リー・ミラー写真集　いのちのポートレイト（リチャード・カルヴォコレッシ、高田ゆみ子訳、岩波書店）

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