ルイス・バーエス・デ・トーレス

ルイス・バエス・デ・トーレス：知られざる航海者

ルイス・バエス・デ・トーレス（Luis Váez de Torres）は、17世紀初頭にスペイン王室に仕えた海洋探検家です。彼の名前は、ポルトガル語風にLuís Vaz de Torresとも綴られます。彼は歴史上、現在のオーストラリア大陸とニューギニア島を隔てる海峡を、記録に残る限り西洋人として初めて航海した人物として知られています。この功績から、後にこの海峡は彼の名にちなんで「トレス海峡」と名付けられました。

出自と探検への参加

トーレスの生い立ちについては、わずかな情報しか残っていません。生年や生地は不明ですが、1606年頃に30代後半から40代だったと推定され、1565年頃の生まれと考えられています。出身はスペイン人（ガリシア人）説が有力ですが、ポルトガル人とも言われます。以前の経歴も不明ですが、スペイン海軍での経験があったという推測もあります。彼は1605年末、ペドロ・フェルナンデス・デ・キロスの南方大陸探索航海に、二番船の指揮官として参加しました。

キロス隊との航海と離脱

キロス率いる3隻の船団は、1605年12月にペルーのカヤオから出航し、1606年5月に現バヌアツのエスピリトゥ・サント島に到達しました。キロスは島を「ラ・アウストリャリャ・デル・エスピリトゥ・サント」と命名。島周辺を探索中の1606年6月、キロスの旗艦が悪天候などで他の船と離れ、メキシコへ帰還しました。

トーレスによる指揮とニューギニア航海

キロス不在の後、トーレスは残る2隻の指揮権を掌握しました。総督命令ではプラドが代理とされていましたが、トーレスが指揮を続けたことは複数の証拠が示しています。1606年6月26日、トーレスはマニラを目指して出航。逆風のため、彼らはニューギニア南岸沿いの航路を選択しました。

航海中、彼らはニューギニア南東部の陸地を発見（おそらくルイジアード諸島）。2ヶ月以上の航海で水や食料を補給し、時には先住民との接触もありました。プラドは詳細な海図を作成し、一部が現存しています。船団はオーストラリア大陸とニューギニア島の間の海峡を航海しました。長年、トーレスはニューギニア寄りの航路を通ったとされていましたが、1980年の研究で、よりオーストラリア大陸に近い現在のエンデヴァー海峡を通った可能性が提唱されました。この航海により、ニューギニア島が大陸ではないことが確認されました。

1607年1月初旬、トーレスはスペイン領テルナテ島に到達し、3月22日に最終目的地マニラへ到着しました。

その後の消息と歴史的影響

マニラでは関心を集めませんでしたが、トーレスはスペインへの帰国と報告書提出を計画しました。1607年6月、キロスの旧旗艦がマニラに到着し、キロス生存を知ったトーレスは報告書を彼に送りました。キロスはこの報告書を国王に提示し、次の航海計画に利用したと考えられています。

これ以降、ルイス・バエス・デ・トーレスとその部下たちの消息は歴史から完全に途絶えています。士官プラドはスペインへ帰国しました。トーレスの航海記録の大部分は公刊されませんでしたが、プラドの報告書や海図とともにスペインの公文書館に保管されました。

18世紀後半、イギリスの水路学者アレグザンダー・ダリンプルがこの記録を目にし、その情報がジョゼフ・バンクスを通じてジェームズ・クックに伝えられたことが確実視されています。クックのオーストラリア探検に、トーレスの記録が間接的に影響を与えた可能性は高く、彼の航海は太平洋探検史において重要な意味を持っています。

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