ルイ1世 (フランドル伯)

ルイ1世（1304年頃 - 1346年8月26日）は、14世紀前半にフランドル伯、ヌヴェール伯、ルテル伯を兼ねた人物です。父はヌヴェール伯ルイ1世、母はルテル伯ユーグ4世の娘ジャンヌであり、1322年に父と祖父が相次いで亡くなった後、1328年には母も亡くなったことでこれらの伯領を全て相続しました。

しかし、彼の治世はフランドルの都市との対立、百年戦争の勃発、そしてイングランドとの複雑な関係によって特徴づけられます。当時フランドル地方では、毛織物工業の発展に伴い経済力を増した都市が、領主の権威を脅かす存在となっていました。特に、フランドルの諸都市はイングランドから羊毛を輸入していたため、親フランスの立場を取るルイ1世とは異なり、親イングランド・反フランスの立場を鮮明にしていました。この対立が、彼の治世を困難なものにしました。

1336年にイングランドが経済制裁としてフランドルへの羊毛輸出を停止すると、フランドルは深刻な不況に陥りました。1337年に百年戦争が勃発すると、ルイ1世はフランス側につきましたが、ヘントの商人ヤコブ・ヴァン・アルテベルデはヘント、ブルッヘ、イーペルの3都市と結んで蜂起しました。1338年にはイングランド王エドワード3世もフランドルに上陸し、ルイ1世はフランスへ亡命を余儀なくされました。事実上フランドルを支配したアルテベルデは、当初中立を保っていたものの、1339年には羊毛輸出の再開と引き換えにイングランドと同盟を結びました。エドワード3世もこれに応じ、1340年にはヘントでフランス王を宣言するなど、フランドルとイングランドの結びつきは強まりました。

1345年、アルテベルデが内部抗争によって暗殺されたことで、ルイ1世は6年ぶりにフランドルへ復帰することができました。しかし、翌1346年のクレシーの戦いでフランス側として参戦し、戦死しました。彼の死後、息子のルイ2世が後を継ぎ、都市の反乱を収束させるとともに、イングランドに接近しつつ勢力拡大を図りました。

ルイ1世は、フランス王フィリップ5世の次女マルグリットと1320年に結婚し、一男を儲けています。この息子が、後のフランドル伯ルイ2世です。

彼の生涯は、中世ヨーロッパの政治的、経済的、社会的な変革期における複雑な関係性を象徴しています。フランドルの都市の台頭、百年戦争、そして国際的な同盟関係が絡み合い、一人の領主の運命を大きく左右したのです。

参考文献

森田安一編『新版世界各国史14 スイス・ベネルクス史』山川出版社、1998年。
城戸毅『百年戦争―中世末期の英仏関係―』刀水書房、2010年。
* 佐藤賢一『ヴァロワ朝 フランス王朝史2』講談社（講談社現代新書）、2014年。

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