ルクレティア (クラナッハ、ウィーン)

[ルーカス・クラナッハ]の「ルクレティア」

この絵画は、[ドイツ]]・ルネサンス期の画家ルーカス・クラナッハ]が1532年に制作した[[油彩作品です。ブナ板に描かれたこの絵は、古代ローマの歴史に登場する悲劇のヒロイン、ルクレティアを題材としています。クラナッハは、このルクレティアをテーマにした作品を生涯にわたり数多く手がけており、本作はその中でも特に重要な位置を占めています。現在、ウィーン美術アカデミーに所蔵されています。

主題：悲劇のヒロイン、ルクレティア

ルクレティアは、古代ローマの歴史家ティトゥス・リウィウスの著作『ローマ建国史』に登場する女性です。彼女は、ルキウス・タルクィニウス・コッラティヌスの妻であり、その美しさゆえに王の息子によって凌辱されました。自らの尊厳を守るため、彼女は自害という道を選びます。この事件は、ローマを王政から共和制へと移行させる大きな転換点となりました。

キリスト教の世界では、ルクレティアは結婚の忠誠や貞節の象徴として捉えられ、多くの芸術作品の題材となりました。クラナッハの工房でも、ルクレティアは特に好まれたテーマの一つであり、彼女が短剣で自らの胸を突き刺す自害の場面が繰り返し描かれました。

クラナッハ初期の作品では、ルクレティアは胸をはだけた姿で描かれることが多く、全身像はあまり見られませんでした。しかし、本作のように晩年の作品では、裸体の全身像で描かれるようになり、その表現はより官能的なものへと変化しました。

作品の特徴

クラナッハは、1509年に「ヴィーナスとキューピッド」を描いていますが、これはアルプス以北で初めて描かれた等身大の裸体像でした。「ルクレティア」においても、その表現手法は踏襲されています。ルクレティアの裸身は、透明なヴェールで覆われていますが、それはむしろ彼女の肉体を際立たせ、女性のエロティシズムを強調する効果を生んでいます。

クラナッハの関心は、物語の叙述よりも、女性の裸体そのものに向けられています。均一な黒色の背景は、彼女の身体を際立たせ、鑑賞者の視線を惹きつけます。また、クラナッハの女性像に共通する特徴として、細い腰と小ぶりながらふっくらとした乳房が挙げられます。優雅な姿勢で立つ彼女の姿は、アルブレヒト・デューラーの作品に見られるようなイタリア・ルネサンス的な人体プロポーションとは異なり、北方的な造形感覚を色濃く反映しています。つまり、中世以来の表現様式を継承していると言えるでしょう。

この作品のルクレティアは、フランクフルトのシュテーデル美術館に所蔵されている「ヴィーナス」と非常に類似しています。クラナッハの工房では、様々な主題を効率的に描き出すために、多くの構図や形態のレパートリーが素描の形で用意されていました。本作のルクレティアも、その中から選ばれた素描を基に描かれたと考えられます。

まとめ

[ルーカス・クラナッハ]の「ルクレティア」は、歴史上の悲劇的な女性を題材としながらも、画家の独特な視点と表現によって、官能的な美しさを放つ作品です。ルクレティアの自害という衝撃的な場面を描きながらも、その肉体美を際立たせることで、見る者に深い印象を与えます。クラナッハの工房における女性像の表現や、その背後にある歴史的背景を理解することで、この作品の魅力をより深く味わうことができるでしょう。

参考文献

『クラーナハ展500年後の誘惑』、国立西洋美術館、ウィーン美術史美術館、TBS、朝日新聞社、2016年刊行　ISBN 978-4-906908-18-9

外部リンク

Web Gallery of Artサイト、ルーカス・クラナッハ『ルクレティア』 (英語)

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