ルズヴィ・ホルベア

ルズヴィ・ホルベア：啓蒙時代の多才な巨匠

ルズヴィ・ホルベア（Ludvig Holberg, 1684年 12月3日 - 1754年 1月28日）は、ノルウェーのベルゲンで生まれ、デンマークで活躍した作家、エッセイスト、哲学者、歴史家、劇作家です。デンマーク＝ノルウェー連合王国時代に、啓蒙主義とバロック人文主義の影響を受け、近代デンマーク・ノルウェー文学の創設者とされています。特に、1722年から1723年にかけてコペンハーゲンの劇場で上演された喜劇作品群で知られています。また、自然法と一般法に関する著作は、1736年から200年間、デンマークの法学生に広く読まれました。

生涯と研究

ホルベアは6人兄弟の末っ子として生まれ、父は彼が1歳の時に亡くなりました。コペンハーゲンで教育を受けた後、コペンハーゲン大学で教鞭を執りながら、作家としてのキャリアをスタートさせます。神学を学んだ後、法律、歴史、言語を教えましたが、神学に対する関心は薄く、神父の道は選びませんでした。当時の慣習として、神学を学ぶことが学問の基礎とされ、法学者を目指す場合は海外留学が一般的でした。1736年にコペンハーゲン大学でデンマーク初の法学士が設立され、ホルベアの著作が教材として用いられました。

ホルベアは当初、無報酬で教鞭を執り、後に准教授に任命されます。形而上学の講義を担当した後、修辞学とラテン語の教授となり、最終的には歴史の教授として迎えられました。彼は若い頃から見聞を広め、オランダ、フランスなどの大都市を訪れ、短期間ローマに滞在、イギリスのオックスフォードには1706年から1708年にかけて滞在しました。オックスフォード大学には正式に入学はしていませんが、図書館を利用したり、学生とラテン語で議論するなど、知的交流を深めました。

著作活動

ホルベアの旅行経験は、彼の著作活動の大きな原動力となりました。これらの経験を通して、芸術的、道徳的に成長を遂げました。彼は古代ラテン喜劇、パリで見たフランス喜劇、ローマの街頭演劇に影響を受けました。彼の著作活動は3つの期間に分けることができます。1711年から1718年までの歴史に関する著作、1719年から1731年までの風刺詩や喜劇、1731年から1750年までの哲学に関する著作です。1721年にコペンハーゲンに開場したデンマーク初の国立劇場での活躍により、劇作家としての地位を確立しました。彼の喜劇は大きな成功を収めましたが、1728年のコペンハーゲン大火による国民の意気消沈とピューリタニズムの台頭は、彼の風刺的な作品と衝突。1731年以降は、哲学や歴史に関する著作へと移行しました。

イデオロギー

パリで出会った科学者ヤコブ・ウィンスローとの議論を通じ、カトリックへの改宗を試みられましたが、ホルベアはこれを拒否。この出来事が、彼がカトリックに改宗したという噂の始まりとなり、ホルベアは反カトリック的な立場を表明する必要に迫られました。ホルベアはキリスト教の教義を批判し、子供はまず大人になるべきだと主張し、神学を学ぶ前に人間として成長することが重要だと説きました。

ホルベアは、理性と知性の重要性を重視し、教育の目的は暗記ではなく、感性と知性を活用することだと考えました。彼は、理性こそが社会をまとめる力であり、なぜ理性が存在しながら世界には悪が存在するのかを疑問に思いました。宗教的な説明ではなく、合理的かつ経験的な思考によって悪を解釈しようとしました。

ホルベアは、聖書批判にも道を拓き、彼の宗教観は理神論的でした。原罪の概念を批判し、人間の自由意志を肯定しました。彼の著作活動の目的は、人々を啓蒙し、より良い社会を築くことでした。彼は、大都市の文化に惹かれ、自然にはあまり関心を示さなかったことも注目に値します。

科学への影響

ホルベアの科学観は、帰納的で、観察に基づいたものでした。1745年の著作「流行している牛の病の覚書」では、病気の原因を微生物であると推測しています。

財務状況

ホルベアの青年時代は質素な生活を余儀なくされました。家庭教師や貴族の旅行仲間として生計を立て、大学のスポーツコーチも務めました。彼は、海外のプロテスタント大学への旅費援助を受けましたが、議論や経験を重視していたため、この援助を重要視しませんでした。イギリス滞在中には、学術的な著作に興味を持つようになり、帰国後は歴史や自然法、国際法に関する著作を執筆しました。彼は、自らの作品を出版し、定期購読という形で販売しました。ノルウェーでの出版にも挑戦しましたが、財政的な利益は得られませんでした。

ホルベアは、質素な生活を送り、本の販売で得た利益を投資に回しました。彼は、無駄遣いをする都会人や貴族を批判し、合理的な食事を心がけ、徒歩で移動しました。投資は貿易ではなく、不動産へと移行し、Brorupgaardの購入を皮切りに、DianalundのTersløsegårdを購入しました。その他の不動産は焼失・解体しています。

ソローアカデミーと遺志

ホルベアは結婚せず、子供もいませんでした。彼の遺産は、王立乗馬学校ソローアカデミーに寄付されました。この学校は、貴族階級の若者のための大学レベルの教育機関を目指していました。ホルベアは、このアカデミーの設立を支援し、教授の選定にも関与しました。影響力のある啓蒙作家イェンス・シールドルップ・スネドルフも、ホルベアの推薦によってソローアカデミーの教授に任命されました。

王との合意には、農場からの収入が非課税となる条項が含まれていました。同時に、ホルベアは男爵の爵位を手に入れました。ホルベアの棺は、ソロー修道院教会で見ることができます。

財務管理の事例

ホルベアは、無益な出費を嫌い、教育者の報酬増額に反対しました。一方で、農場の労働者が病気や怪我をした場合には、医療費を惜しみませんでした。ソローアカデミーが経済的に苦境に陥った際には、資金援助を約束しました。

ホルベアへの賛辞

ノルウェーの作曲家エドヴァルド・グリーグは、ホルベアを讃え「ホルベアの時代から」を作曲しました。1911年にはヨハン・ハルヴォルセンが、ホルベアの戯曲「部屋で横たわる」のために付随音楽を作曲し、後に「Suite Ancienne」に編曲しました。ノルウェーのベルゲン大学では、2004年から「ホルベア賞」を授与しています。カナダのブリティッシュコロンビア州には、1907年にデンマーク移民によって作られたホルベアという町があります。

ホルベアのオペラ「美しい花婿」は、最後の戯曲「変身した花婿」に基づいています。ベルゲンの中心部には、ホルベアの像と、彼の名前を冠したブールバールがあります。また、水星のクレーターにも彼の名前が付けられています。

主な作品

喜劇

『政治屋』 (Den Politiske Kandestøber, 1722)
『優柔不断な男』 (Den Vægelsindede, 1722)
『ジャン・ド・フランス』 (Jean de France eller Hans Frandsen, 1722)
『イェッペ、丘の上で』 (Jeppe paa Bjerget eller den forvandlede Bonde, 1722)
『ゲルト・ウェストファーレン』 (Mester Gert Westphaler, 1722)
『出産部屋』 (Barselstuen, 1723)
『6月11日』 (Den ellefte Junii, 1723)
『ヤコブ・フォン・テューベ』 (Jacob von Tyboe eller den stortalende Soldat, 1723)
『ユリシーズ・フォン・イタキア』 (Ulysses von Ithacia, 1723)
『エラスムス・モンタヌス』 (Erasmus Montanus eller Rasmus Berg, 1723)
『ドン・ラヌド・デ・コブラドス』 (Don Ranudo de Colibrados, 1723)
『頭と尻尾』 (Uden Hoved og Hale, 1723)
『多忙な男』 (Den Stundesløse, 1723)
『魔術』 (Hexerie eller Blind Allarm, 1723)
『メランペ』 (Melampe, 1723)
『幸運な難破』 (Det lykkelige Skibbrud, 1724)
『アラビアの粉』 (Det Arabiske Pulver, 1724)
『仮面舞踏会』 (Mascarade, 1724)
『クリスマスの部屋』 (Julestuen, 1724)
『見えないもの』 (De Usynlige, 1724)
『ディデリヒ・メンシェンスクレーク』 (Diderich Menschenskraek, 1724)
『鉱泉旅行』 (Kildereisen, 1725)
『ヘンリクとペルニッレ』 (Henrich og Pernille, 1724-1726)
『質入れされた農家の息子』 (Den pantsatte Bondedreng, 1726)
『ペルニッレの短いミス時代』 (Pernilles korte Frøkenstand, 1727)
『デンマーク喜劇の葬儀』 (Den Danske Comoedies Liigbegængelse, 1727)
『正直な野心』 (Den honette Ambition, 1731)
『変身した花婿』 (Den Forvandlede Brudgom, 1753)
『プルートゥス』 (Plutus eller Proces imellom Fattigdom og Riigdom, publ. 1753)
『幽霊』 (Husspøgelse eller Abracadabra, publ. 1753)
『妄想的な哲学者』 (Philosophus udi egen Indbildning, publ. 1754)
『共和国』 (Republiqven eller det gemeene Bedste, publ. 1754)
『哲学的国へのスガナレルの旅』 (Sganarels Rejse til det philosophiske Land, publ. 1754)

詩

『ペダー・パース』 (Peder Paars, 1720)
『4つの滑稽な詩』 (fire Skæmtedigte, 1722)
『変身』 (Metamorphosis eller Forvandlinger, 1726)

小説

『ニルス・クリムの地下旅行』 (Nicolai Klimii iter subterraneum, 1741).

随筆

『道徳的な考察』 (Moralske Tanker, 1744)
『書簡集』 (Epistler, 1748–54)
『道徳的な寓話』 (Moralske Fabler, 1751)
『3つのラテン語自伝』 (Tre latinske levnedsbreve, 1728–1743)

歴史書

『ヨーロッパ主要国の歴史への入門』 (Introduction til de fornemste Europæiske Rigers Historier, 1711)
『道徳の中心』 (Morals Kierne eller Introduction til Naturens og Folke-Rettens Kundskab, 1716)
『デンマークとノルウェーの記述』 (Dannemarks og Norges Beskrivelse, 1729)
『デンマーク王国の歴史』 (Dannemarks Riges Historie, 1732–35)
『ノルウェーの有名な商業都市ベルゲンの記述』 (Den berømmelige Norske Handel-Stad Bergens Beskrivelse, 1737)
『一般的教会史』 (Almindelig Kirke-Historie, 1738)
『世界の始まりからのユダヤ史』 (Den jødiske Historie fra Verdens Begyndelse, fortsat til disse Tider, 1742)
『著名な英雄と名高い人物の比較歴史』 (Adskillige store Heltes og berømmelige Mænds sammenlignede Historier, 1739–53)
『著名なヒロインと有名な女性の比較』 (Adskillige Heltinders og navnkundige Damers sammenlignede Historier, 1752)

参考文献

ホルベアのラテン語による遺言。推奨されるのは以下の書籍です。
Holberg, Ludvig, and Aage Kragelund. Ludvig Holbergs tre levnedsbreve 1728-1743. København: G.E.C. Gads Forlag, 1965. この版には、序文、ホルベアのラテン語とデンマーク語のテキスト、解説、索引が含まれています。
Thomsen, Ole B. Embedsstudiernes universitet en undersøgelse af Københavns universitets fundats af 1788 som grundlag for vores nuværende studiestruktur. København: Akademisk Forlag, 1975. ISBN 87-500-1536-2
Grethe Ilsøe: Juridisk eksamen for ustuderede. Kollektiv biografi af 1. kandidatgeneration (eksamensårgangene 1736-65) i: Personalhistorisk Tidsskrift, 1985, nr. 2
Jens Hougaard, Ludvig Holberg. The Playwright and his age up to 1730, Odense University Press. 1993. ISBN 87-7492-881-3.
Caterina Marrone, Le lingue utopiche, Nuovi Equilibri, Viterbo, 2004 [1995], p. 338, ISBN 88-7226-815-X