ルドビシの玉座

ルドビシの玉座

「ルドビシの玉座」（正式名称は『ルドヴィシの玉座』とも表記され、ラテン語ではLudovisi throne）と呼ばれるこの古代彫刻作品は、紀元前5世紀中頃に制作されたと推定される、紀元前古典期ギリシャ美術における重要な遺例です。作品が発見されたローマのルドビシ邸にちなんで名付けられましたが、その名称に反して、実際には座るための玉座ではなく、神殿などに据えられていた神像の台座、あるいは祭壇の最上部を飾る一部であったと考えられています。

制作年代と起源

本作品は、紀元前460年頃に制作されたと見られており、その起源は古代ギリシャにあります。具体的にどこで造られたかは定かではありませんが、その様式や石材から、古代イタリア南部に存在したギリシャ人植民地（マグナ・グラエキア）で制作された可能性が指摘されています。

作品の内容

この作品は、三面の浮彫で構成されています。

正面：中央には、布をまとい、二人の侍女に支えられながら海から現れる女性が描かれています。この女性が誰であるかについては諸説ありますが、広く有力視されているのは、愛と美の女神アフロディテ、あるいは冥界の女王ペルセフォネであるという説です。どちらの神格も、ギリシャ神話において重要な役割を担っています。
側面：正面の浮彫を挟むように、左右の側面にも浮彫が施されています。これらは対照的な二人の女性像です。一方には、フルートのような管楽器であるアウロスを演奏する、頭に何も身につけていない裸体の女性が描かれています。もう一方には、香炉（テリテリオン）を持ち、香を捧げているかのような動作をする、厳粛な装束をまとった女性が描かれています。これらの側面像は、神聖な儀式や世俗的な音楽、あるいは異なる人生の段階などを象徴しているのかもしれません。

様式と重要性

『ルドビシの玉座』は、紀元前5世紀初頭の硬直したアルカイック様式から、より自然で理想的な表現へと移行する過程にあった、厳格様式（Severe Style）と呼ばれる時代の作品として知られています。厳格様式の特徴である、身体表現の重厚さや抑制された感情表現、そして理想化された形態がこの作品にも見られます。浮彫としての技術も高く、厚みを持たせた彫り込みによって立体感が強調されています。この作品は、厳格様式における現存する数少ない大型の浮彫作品の一つであり、当時のギリシャ彫刻の技術や美学を理解する上で、極めて貴重な資料とされています。

発見と現在

この彫刻は、1887年にイタリアのローマにあったルドビシ邸の敷地内で発見されました。ローマ時代にギリシャから持ち込まれたか、あるいはローマ人が模倣して制作したものかは議論がありますが、紀元前5世紀中頃のギリシャ様式を持つことは確かです。現在、『ルドビシの玉座』はイタリアのローマ国立博物館に収蔵されており、その貴重な姿を見ることができます。

厳格様式の傑作として、また古代ギリシャにおける宗教的儀式や神話表現を考察する上で、『ルドビシの玉座』は現在も多くの美術史家や考古学者によって研究対象とされ続けています。

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